実践+発信

統計哲学視覚化演習を実施しました

2019.1.31

2019年1月12日(土)の午後と1月23日(水)の夜の2回にわたって「ベイズと統計:推論・認識・解析」と題した統計哲学視覚化演習を実施しました。

統計学は多様な背景を持つ複合体として成立しています。中でも、階層ベイズモデルや機械学習などで盛んに用いられているベイズ統計は、現在も含めて常に対立が見られます。しかし、少なからぬ学生・研究者も、そうした問題を意識せずにパッケージ化したソフトを使ってしまう傾向にあります。科学的研究の基盤になる統計を俯瞰的に理解することは、「科学」とは何かを理解する上で重要といえます。

この演習では、科学哲学・統計の哲学が専門の森元良太先生(北海道医療大)と松王政浩先生(北大理)、そして数理生態学者で統計学の専門家でもある島谷健一郎先生の講義を受け、それをもとに、諸概念の関係や展開を視覚化させた「ベイズ・マップ」をグループワークで作成しました。CoSTEPでもこれまでにない新しいプログラムです。

1回目となる 1月12日(土)は20数名が参加しました。まず冒頭で、川本が授業のねらいと進行を説明しました。続いて森元先生(北海道医療大)が「ベイズ主義と帰納推論」と題し、ベイズ主義と頻度主義の基礎と、帰納推論におけるベイズの定理の意義について述べ、そしてベイズ主義には実に様々な立場があることを話しました。

次に、松王政浩先生(北大理)が「ベイズ「主義」とは?~どこにもない見取り図を求めて~」と題して、ラプラス・ベイズの時代から現在まで、ベイズ主義、統計の理論の論争について話しました。

そして島谷健一郎先生(統計数理研究所)が「ベイズ統計の現状:数値計算と分類」と題し、生態学で用いられている個体数推定や、文書の分類にベイズが用いられていること、統計におけるモデルの重要性について話しました。

最後のレクチャーはCoSTEPの池田による「視覚化のいろいろ」です。図解の有用性と、次回作業に向けてのポイントについて簡単にまとめて、第1回の演習は終了しました。

2回目の 1月23日(水)はベイズマップ作成が中心です。14名が参加しました。あらためて池田から視覚化について簡単なレクチャーを行ったあと、グループ作業に入りました。

各班3~4名のメンバーは、各自のノートや下絵を見ながら、そして先生方に質問しながら、授業内容をふりかえりました。そしてなんとかまとめあげ、各班2分で発表をしました。4グループともまったく異なるベイズマップになりましたが、頻度統計とベイズ統計を対比させたものが多かったようです。

本演習は、科研基盤B「科学教育の一環としての統計学認識論に関する教育カリキュラム構築」(代表:松王政浩(2016~2019))と共同で実施しました。ベイズ主義の中の幅広さをどう伝えるか、頻度統計とベイズ統計を単純な二分法ではないものとして理解するためにはどう伝えたらよいか、など今後のカリキュラム構築へ大きな示唆が得られました。また、複雑な学術的概念の関係性の全体像を、一目で伝えられるダイアグラム(模式図)にまとめて伝えることは、科学技術コミュニケーションの手法としても重要です。今後もさらにプログラムを洗練させていく予定です。