昨年春、私はCoSTEPのホームページに並んだグラフィック、映像音声による表現、ライティング、プレゼンテーション…という言葉につられ、ほんの軽い気持ちでCoSTEPの門を叩きました。要するにCoSTEPに入れば何かそれらしいスキルが身につけられるのではないかと期待していた訳です。
開講特別講義が終わって初めて実習班と会った時。右から3番目が本人
しかし、配属された「札幌可視化プロジェクト実習」(以下、可視化)は唯一のスキル習得を目的としていない実習でした。参加当初、私の可視化に対する理解はアートに関連した何かをするのだろうという程度。今でも「可視化とは何か」を伝えるのには苦労しますが(笑)。
そんな可視化でいったい何を身につけたのか。ざっくり表すと、多様な人々の「視点」について考え続け、それについて考える土台をつくったと言える気がします。これではまだ漠然としているので、一年間の具体的な活動を振り返りながらどうやって「土台づくり」をしたのか見ていきたいと思います。
札幌芸術の森美術館の野外展示。自然の中でアートを体感した時。前から2番目が本人
まずは「ノラ*」な写真を用いての少人数での対話。(*ノラ:普段身の回りにあるけど、みえないもの、みすごしているもの)私は「ノラ」として、札幌の街で「すきま」をたくさん写真に収め、3人のお客さんと「すきま」について語り合いました。これを通して、分かったのは「すきま」というたった一つの単語に対しても、人それぞれ「視点」が異なるということでした。要は「視点」の違いがあることを体感したのです。
ノラプロジェクトで撮影した写真を、実習班のみんなで話し合っている。一番右が本人
次に韓国済州島と北空知でのワークショップ。様々なバックグラウンドを持つ人たちと協働しました。ここでは多様な「視点」を感じそれをまとめることに悩まされながら、多様だからこそ出来るものをつくりました。
<左>済州島でグループメンバーと、済州島名物「ハルバン」と記念撮影。前列の右が本人
<中央>ソウルの国立中央博物館で展示を観覧した時
<右> ソウルの国立中央博物館の学芸員との取材。真ん中が本人
そして、最後はヒグマの遺伝子と石の展示。魅力あふれる「研究者の視点」を私たちなりに解釈して、音や写真、映像といったアートの手法で可視化したのがこの展示。科学に馴染みの薄い人たちに「自身の視点」と「研究者の視点」の違いを楽しんでもらうことで、科学の世界の入り口に立ってもらうことを目指しました。このように実践を通して、「視点」の違いを認知し、多様な「視点」を体感し、「研究者の視点」を可視化してきました。
展示製作中。これだけの試行錯誤があることにびっくりです
科学技術コミュニケーションにおいて、様々な関係者がいて、それぞれ違った視点を持っていることを意識して活動することは重要な要素です。しかし、真に「他人の視点を考えること」を実践するのは口で言うよりずっと難しいことだと思います。