阿部竜先生(北海道大学触媒化学研究センター・准教授)をゲストに迎えて開催した第58回サイエンス・カフェ札幌。前半に引きつづき後半の様子をレポート〈part 2〉にまとめてご報告します。
16時30分からの第二部は、一般の方を対象とするサイエンスカフェです。子供向けのカフェとはうって変わって、高校生から初老の方々まで、いろんな年代の方々が参加され、落ち着いた雰囲気で対話が進みました。
阿部さんは、光のエネルギーを利用して化学反応を促進する、光触媒について研究しています。これまでの光触媒は、波長の短い紫外光でしか働かなかったのですが、私たちの目に見える可視光でも働くようにする、それが阿部さんの研究テーマで、2001年に世界で初めて、光触媒に可視光をあてることで水を分解し、水素と酸素を発生させることに成功しました。
この研究がさらに進み、太陽光で効率よく、水から水素を発生させることができるようになれば、エネルギー問題や環境問題の解決に向けて大きな可能性が拓けてきます。二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギー源として注目されている燃料電池に、こうして製造された水素を利用することができます。しかもその水素が、タダで枯渇することのない太陽光をエネルギー源にして製造できるのです。
会場からは、光触媒による水素の製造が本格的に実現するまで、何年ほどかかるのか、費用はどのくらいかかるのかなど、実用化に関する質問が多く出されました。そうした質問に阿部さんは、光触媒による水素の製造技術を企業で研究してもらうには、このさき5年間の研究が重要になる、と強調。「その間にブレイクスルーがないと、社会からの期待も下がってしまうだろうから、なんとか5年のうちに成し遂げたい」と、決意を語ってくださいました。
阿部さんによると、これまで光触媒の研究は日本が先頭を走ってきたが、最近ではアメリカやヨーロッパでも、巨額の研究資金を投入して日本を追い上げようとしているとのこと。アメリカで研究しようとは思わないですか? と水を向けると、「いや、思いません。プライドが許しません」とキッパリ。会場の参加者から、期せずして拍手がわき起こりました。
阿部さんは、「エネルギー源がなくなると争いになるということが、歴史の中で繰り返されてきた。そうした争いを回避するためにも、光触媒による水素の製造を実用可能な技術にしたい」とも強調していました。日本だけでなく世界のために科学技術の成果を活かしたい、阿部さんのそんな心意気が伝わってくるサイエンス・カフェでした。
前半の様子、レポート〈part 1〉はこちらから