実践+発信

モジュール6-4「超高齢化社会の活性化について当事者の観点から語る」(2/1)若宮正子先生講義レポート

2025.3.14

石田智和(2024年度選科A/社会人)

モジュール6では、社会の中で科学技術コミュニケーションの領域を意欲的に開拓している方々から社会における実践のお話を伺います。第4回目は、若宮正子先生です。セルの塗りつぶし機能や罫線の色つけ機能を使って作ったエクセルアート作成者である若宮さんは、当日も、自分でデザインした洋服を着用されていました。資料にも、ところどころにエクセルアートが使われていて、とても目を引きました。どんなお話をされるのかとても楽しみにしながら、拝聴しました。

(ご自身でデザインされたエクセルアートのブラウスでお越しになられました)
御年89歳!世界最高齢のプログラマー

1935年生まれの若宮さんは、インターネットで自分で世界を広げていきました。現在は、内閣府主催「高齢社会対策大綱策定のための検討会」構成員など、多くのお仕事をされています。「超高齢化社会の活性化について当事者の観点から語る」をテーマにお話をしていただきました。

(もうすぐ90歳になられる若宮先生!戦時中の「空腹我慢時代」をご経験されています)
デンマークの事例

まずは、海外の現状を説明していただきました。デンマークに調査に行かれた時のお話です。そこには、日本の未来がすでに始まっていました。デンマークは、様々な角度から見て、ウェルビーイングは最高レベルです。電子政府・電子社会の優等生で、欧州において最もデジタル化された社会のため、国民全体のITリテラシーはとても高く、それが国民生活と企業活動に多大な利益をもたらしています。ある調査では、世界競争力第一位にランキングされています。成功の鍵は、生産性を生活の質に転換するという考えです。デンマークがデジタル先進国になったのは、生涯学習、デジタル行政の効率化、市民生活への適用です。高齢者が自立して暮らすためのテクノロジーであるエイジテックが進んでいるため、65歳以上の高齢者の97%がITを利用し、65%がオンライン支払いを活用するなど、日常生活にITが溶け込んでいます。官公庁、自治体では、紙を一切使わないほどです。そこには、デンマーク国民の自立を尊ぶ国民性が関係しています。他国同様に高齢化が進んでいるデンマークですが、機器に対して利用者目線で工夫がされたり、介護者に負担をかけない介護をしたりということが実践されています。高齢化対策には多くの税金が必要です。しかしデンマークでは、増税をすることなく、デジタル化・テクノロジー導入で、費用を捻出しています。行政手続きの時間が3割短縮し、年間約370億円の経費が削減されたほどです。「政府が社会のためにやりましょうというのだから、私も頑張って馴染むようにしよう」という信頼に基づいた社会への貢献意識があるのではないかと思われています。

出遅れた日本のデジタル化

それに対して日本の現状はどうかというと、デジタル化は遅れています。その原因の一つに高齢化が考えられています。高齢者はインターネット利用率や、スマートフォン・タブレットの利用率が低いです。高齢化で国や地域が押しつぶされないようにする必要があります。そのためにはどうすればいいのでしょうか。若宮さんは、「高齢者は心身ともに自立する」、そして「若者はその自立を支援する」ということを高齢化社会対策として考えています。そのために必要なことは、高齢者を知る、高齢者の意見を聞く、高齢者も積極的に発言する、高齢者の教育改革、高齢者の活躍の場を用意する、です。高齢者の現状を知り、自立を妨げないようにする。そして、高齢者にも一市民として対等に付き合うことが必要です。

人生100年時代を楽しく生き抜く5つの心得

そして、これから高齢者になる我々に対しては、人生100年時代を有意義に楽しく生き抜くために、5つのこと教えていただきました。

①「まず、学ぶ、新時代に慣れる。」
何をどう学ぶかを考える。勉強はAIに手伝ってもらう。新しい時代の仕事の仕方にはお手本はない。

(「学ぶ」は「学ぶ」でも、考える方の「学ぶ」が重要だと言われました)

②「本質を知る。」
スマホは、自分のできることを増やしてくれる道具の一つ。

③「失敗しよう、させよう」
失敗は、次の段階へ進むための経過。失敗しないと成長しない。

④創造的に生きよう
新しい発想で見直す。(若宮さんは、その発想で、エクセルアートを考えました。)

⑤多くの人と交流する
異世代交流を活発に。フォルダー型人間だけでなく、ハッシュタグ型人間になる。

(肩書きだけではなく、引き出しの多い「ハッシュタグ型人間」になることで人との繋がりが増えると言われました)

⑥柔軟な思考と冷静な判断
自分のアタマでものを考える。

人生は60を過ぎてから

若宮さんは、人生60を過ぎてから面白くなりました。そして70代、80代は伸び盛りと実感しています。自分が打ち込めることや面白いと思うことはいくつになってもできます。とりあえずなんでもやってみることが大切です。従来型の考えではついていけない時代が来ても、どんな時代にもたくましく生きるチカラと叡智と柔軟性があればきっと素晴らしい未来が待っていると思います。

最後に「皆さんの卓見と叡智に期待しております。」とメッセージをいただきました。しかし、そんな若宮さんは、「私も、まだまだ未熟です。でも、これからも、大いに学び、成長してしていきたいと思っています。」ともおっしゃっています。若宮さんの物事に対する考え方や姿勢が表れている気がします。機会があれば、ぜひ直接お会いしてお話をお聞きしたいと思いました。

(年を取ることに希望が持てるような素晴らしい講義でした!若宮先生、ありがとうございました!)