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モジュール4-3「メタバース進化論:住人の生活と大規模調査データから見るソーシャルVR課題と革命性」(10/25) バーチャル美少女 ねむ先生講義レポート

2025.12.3

植田康太郎(2025年度 本科・ライティング 受講生)

モジュール4-3の講師は、バーチャル美少女ねむさんです。今回の講師は、他の先生とは異なりバーチャルな存在です。そのため、授業形式もDiscord、Google Meet上での配信となりました。授業中は、受講生が適宜コメントや質問をし、ねむさんが答えるというような、相互の交流が行われました。

バーチャル美少女ねむさんは、「Vtuber」という用語が登場する前から、メタバース上で活動しているメタバース文化エバンジェリストです。昼間は普通の社会人として生活する一方、自宅では毎日のようにメタバースに入り、メタバース上の住人と交流しています。また、Web記事やYouTube動画、著書『メタバース進化論』の執筆などを通じて、メタバースの新しい生き方を一般の人にも伝える活動をしています。

メタバースについて

メタバース登場以前のインターネットは、物理世界に肉体があることが前提として設計されていました。例えば、どれだけSNS上で他者と交流しても、最終的により仲良くなるには、物理空間上で会うことも必要でした。しかし、メタバースはメタバース空間のみで完結してしまう世界であるとねむさんは言います。

メタバースの定義

メタバースとは、「超越した」という意味を持つ「メタ(meta-)」と世界や宇宙という意味を持つ「ユニバース(universe)」という、2つの用語を組み合わせた言葉です。つまり、メタバースとは、「現実世界を超越した空間・世界」という意味を持ちます。

「メタバース」という言葉の由来(p.25『メタバース進化論(技術評論社)』)

さらにねむさんは、以下の7つの要素を満たしたものをメタバースと定義しています。

メタバースの定義七要件(p.32『メタバース進化論』(技術評論社)』)

このような七要件を満たす「すべての活動がそこで完結する、人類の新たな生活空間」がメタバースなのです。ねむさん自身、「バーチャル美少女ねむ」という物理空間とはまったく違う人格で生きています。これにより、物理空間ではできなかったことにもチャレンジできるようになり、物理空間で生活するだけでは気づかなかった新しい自分に出会えるようになりました。

VR機材

ねむさんは、メタバースに入るときは、頭に「VRゴーグル」を装着し、手足にトラッキングのための装置を装着します。これによって、全身の体の動きの情報がアバターに転送される「フルボディトラッキング」、略して「フルトラ」ができるようになります。

3点・6点・10点トラッキング(p.123『メタバース進化論』(技術評論社)』)

この「フルトラ」ができると、顔の表情を変えられたり、手と指を用いたジェスチャー、足を使った動きができたりするようになり、より他者とコミュニケーションが容易になります。

メタバース空間

メタバース空間は、距離や空間の制限がありません。そのため、待ち合わせをする際に、特定の場所に移動するという概念がないため、会いたい人にすぐ会えます。

また、距離や空間の制限がないので、クリエイターが活動しやすい環境です。例えば、メタバース上では、音楽ライブをやりたいと思えば、一人で場所を確保し、イベントの運営ができます。また、バーチャル上では、アバターの服のデザインだけでなく、顔や身長も全て自由にデザインできます。

このように、メタバース上でのクリエイティブ活動は日々行われており、そこにはクリエイターエコノミーが成立しています。

ソーシャルVRライフスタイル調査2023の結果

現在、メタバースには、数百万人の住人が存在します。このようなメタバースで生活している人にはどのような特徴があるのでしょうか。ねむさんは、メタバースの住人に対するアンケートを定期的に実施しています。授業の後半では、このアンケート調査に基づいた説明がありました。

メタバース住人の特徴

講義では、今年特にホットな話題でもあるクマ被害について、架空の市の状況を踏まえてどのように解決していくかをグループで議論し、多様な視点、解決の困難さを実感しました。

メタバースでは、バーチャル美少女ねむさんのように物理現実の名前とは異なるキャラクターネームで活動している人が多いです。つまり、メタバースの住人は、現実とは違うアイデンティティで生活したい人が多いようです。

次に、性別について見てみましょう。物理空間上は男性の割合が82%で、最も多いです。一方、物理男性の75%、物理女性の83%と大多数の人が、女性型アバターを使用しています。このように、メタバースでは物理現実とは異なる性別のアバターを使う人が多く存在します。

では、なぜ物理現実と逆の性別のアバターを使うのでしょうか。

一番多い理由は、「単にアバターの外見が好みであるため」です。女性型アバターのほうが服の種類が多く、ファッションを楽しめます。また、「より自分を表現しやすい、またはコミュニケーションしやすいため」という理由の人もいます。これは、女性型アバターのほうが、相手に警戒させずに距離感を近づきやすいので、コミュニケーションに有利だからと考えられます。

次はアバター種族の分布です。一番多いのが、猫耳や羽がついた「亜人間」の47%で、この割合は年々増えています。その次に、「人間型」の41%が多いです。

なぜ、「亜人間」が多いのでしょうか。ねむさんは、自分だけの個性のあるアバターを使いたい、また、物理現実の身体と大きな違いがないため、感情を表現しやすいという2つの理由で亜人間が増えているのではないかと考えています。

これまで人類は、性別や年齢、人種など自分の姿形によって人生が大きく左右されてきました。しかし、メタバースではこのように、自分の姿を自由にデザインできるのです。

メタバース上のコミュニケーションの特徴

次にメタバースの住人のコミュニケーションの特徴をみていきます。

ソーシャルVRでのコミュニケーションは物理現実と比べて相手との距離感が近くなる人が67%という結果になりました。また、バーチャル上で仲のいい人とスキンシップする人は65%となっています。

物理現実だと女性同士ならスキンシップを含むコミュニケーションというものはあります。しかし、物理男性の場合はあまり見られません。しかし、メタバース空間では、みんながかわいいアバターを使っているので、コミュニケーションの距離感というのはとても近くなります。

さらに、アバターというのは自分の好みの集合体です。一番自分が出したい自分でコミュニケーションできるというのも、コミュニケーションの距離が近くなる理由だと考えられます。そのような結果、スキンシップのあるコミュニケーションが起こりやすくなっている可能性があります。

また、驚くべきことに、ソーシャルVRで恋をしたことがありますかという質問をしたところ、4割の人がはいと答えました。

ただ、メタバース上の恋愛は、現実と違う部分もあります。「ソーシャルVRで相手に惹かれる時、始めのきっかけになるのはどんな要素ですか?」と質問したところ、最も多いのが「相手の性格」でした。

メタバース上では自分の姿を自由にデザインできるので、物理現実のように、見た目から好きになることはあまりないようです。

このように、メタバース上では、アバターを介することによって逆に相手の中身がわかるようになり、その人柄に惹かれて恋が始まるのです。

また、衝撃的な結果として「ソーシャルVRで恋をする時、相手の生物学的な性別は重要ですか?」と質問したところ、67%の人が「重要ではない」と答えています。物理現実だと、相手の性別というのは重要ですが、バーチャル上だとあまり気にする人は少ないようです。

メタバース上だと相手の性別や見た目、人種のような見た目の要素を排除して、相手の心があっているかというところでコミュニケーションできます。その結果、このような「相手の性格」を重視した恋愛が起こっているのではないかと考えられます。

このように、物理現実とメタバースでのコミュニケーションの性質は異なります。物理現実では、良くも悪くも相手の属性にとらわれてしまいます。一方、メタバースでは、性別や人種のような属性を外したコミュニケーションが特徴です。

ファントムセンス

VRゴーグルをつけると、視覚情報と聴覚情報を取り入れることはできますが、他の味覚、嗅覚、触覚を感じる機能はありません。しかし、メタバースでの生活を続けるにつれ、メタバースでの生活に実感が増すようになり、視覚や聴覚以外の情報も得られたように錯覚することがあります。このような現象を「ファントムセンス」といいます。

例えば、風の感覚や温度の感覚、落下感覚などが擬似的に感じられるようになります。

このファントムセンスは、プレイ時間と相関があり、プレイ時間が増えるほどファントムセンスを感じる人が増えていきます。

このように思った以上に人間の脳は、適応性が高く、実際には感じていない感覚まで感じられるようになります。メタバースを使い続けると、人間の新たな感覚のようなものが生まれるかもしれません。

さいごに

バーチャル美少女ねむさんの講義を通じて、メタバースではどのような人が住んでいるのか、どのような生活を送っているのかについてより解像度を高められました。ねむさんのいう定義がすべて揃った「完全なメタバース(Perfect Metaverse)」の登場までは、まだまだ時間がかかりそうですが、その日は確実に来ることでしょう。

今回の講義の詳細は、『メタバース進化論』で書かれていますので、こちらも読んでいただけると幸いです。

【参考文献】
・バーチャル美少女ねむ. メタバース完全に理解した【原住民が解説する定義・現在・課題・可能性】. https://note.com/nemchan_nel/n/n7120451edb70 (最終閲覧日:2025年11月27日)
・バーチャル美少女ねむ. 全身でVR世界へGO!!! フルトラのススメ. https://note.com/nemchan_nel/n/n80f765f2985a (最終閲覧日:2025年11月27日)
・バーチャル美少女ねむ. なぜ人は美少女になるのか? 女性型アバターが優位な理由考察【バ美肉】. https://note.com/nemchan_nel/n/n3fcb9edbf24c (最終閲覧日:2025年11月27日)
・バーチャル美少女ねむ. 「VR温泉に入ったらバーチャル湯冷めで風邪ひいた」 メタバースで現実の感覚を覚える 「ファントムセンス」はなぜ生じるのか. https://nlab.itmedia.co.jp/cont/articles/3353616/ (最終閲覧日:2025年11月27日)
・バーチャル美少女ねむ. ソーシャルVRライフスタイル調査2023 (Nem x Mila, 2023). https://note.com/nemchan_nel/n/n167e77d78711 (最終閲覧日:2025年12月1日)
・バーチャル美少女ねむ. メタバース進化論 —仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界. 技術評論社. 2022