実践+発信

モジュール2-2「実践入門」(6月20日) 古澤正三先生講義レポート

2026.9.26

竹本文香(2026年度選科A/社会人)

モジュール2の2回目は、北海道大学 CoSTEP 特任講師である古澤正三先生による講義でした。本講義は多様な実践事例を通して科学技術コミュニケーションの手法を学び、企画の流れや科学技術コミュニケーターに求められるスキル等を身に付けることを目的としています。実際に活動されている方々の実例はこれまで自分が思い描いていたよりも多種多様なものであり、科学コミュニケーションの可能性の大きさを感じる内容でした。

「安全に失敗できる場」

講義の冒頭で古澤先生はCoSTEPのことを「安全に失敗できる場」と表現されていました。そして『実践』とはまずやってみて、振り返りをして次につなげていくものであり、失敗も大きな学びになるという言葉に勇気づけられました。これから行われる実地研修では経験する・振り返る・整理する・試すという流れを意識しながら、失敗を恐れず楽しみたいと思います。

また「対象にどうなってほしいか」という視点の重要性について語られており、科学技術コミュニケーションの活動において自分は何を大切にしたいのか、なぜこのテーマを扱うのかという軸をしっかりと作る必要があると感じました。そして自分の行っていることが独りよがりにならないよう、参加者にとって意味のある活動をしていきたいと思います。

今回の講義の中で「科学コミュニケーションについて専門的なことをわかりやすく伝える、ということは難しい部分を削ることではない」という言葉が一番印象に残っています。わかりやすくしようとすると、難しい部分を取り除いてしまいがちです。しかし科学コミュニケーションは聞いて繋げることであり、科学の伝え手である前に、社会の声を受ける立場でもあります。伝える側・伝えられる側両者の立場として自分が聞く立場ならばどう伝えられたいかと考えたいと思いました。

この講義では4人の講師から活動について発表がありました。

池田貴子先生/アーバーフォックスとの共生

北海道でキツネは身近な生き物です。それは政令指定都市である札幌でも同様でそこで生きるキツネ(都市ギツネ・アーバンフォックス)はかわいらしいものの、人慣れしてしまったことでエキノコックス(寄生虫)感染や畑を荒らす、噛むなどといった深刻な被害をもたらしています。この問題に池田先生のアプローチとして公園管理者・行政と協力しての対策が紹介されました。対策のために作ったものが飛び出す絵本とキツネを生き残らせる、エキノコックスを感染させるといった趣向のボードゲームということで「菌の立場に立ったゲームとは斬新な」と興味を持ちました。またただ怖さを訴えるだけではない、注意を促す看板を機能させるにはどうしたらよいかなどの活動事例が今後の講義で紹介されるということで、これからの講義がより楽しみになりました。

平川全機先生/『聞き書き』について

環境社会学の観点から人々が周囲の自然をどう使っているのかを研究している平川先生からは、『聞き書き』の事例紹介がありました。今まで私は科学技術コミュニケーションとは科学を伝えることで受け手が科学を楽しむ又は知識を身に付けるものだと思っていました。しかし平川先生の事例は東北を共同調査された際に形として残っていない暮らしの様子をまとめ、研究の発表と別に聞き書きとした、というものでした。そして東日本大震災が起きた際、調査を行っていた地域も甚大な被害を被ったそうですが、聞き書きしたことなどによって築かれた信頼関係を縁に復興に携わることとなったそうです。この事例から科学技術コミュニケーションの『残す』という役割を学びました。物や記憶が残るというだけでなく、場所や世代を超えて多くの人に伝える形にできるのが面白いと感じました。

さとうゆか先生/アニメーションを用いた手法

3人目の講師はコマ撮りの手法によって少しずつ変わっていくアニメーションを制作されているさとう先生です。アートと科学技術コミュニケーションの関わりについて紹介されたさとう先生は相手に合わせた伝え方を行おうと工夫されており、自然をモチーフとした作品を作った事例や、プロジェクトマッピングなど目で楽しむ手法を紹介されました。特に興味を惹かれたのが『手に取る宇宙』という取り組みです。宇宙を手に持ちたい、宇宙を見下ろすことができる、という発想から宇宙飛行士・JAXAと協力して宇宙飛行士がボトルで持ち帰った宇宙を地上の人々が手に持った感想をまとめる、というものでした。この事例紹介から理系かどうかにかかわらないサイエンスコミュニケーションの在り方、そして伝え方をひとつにこだわらず相手に合わせて変える柔軟さを持つ重要性を学びました。

五十嵐千夏先生/アートと科学技術コミュニケーション

現代美術、翻訳・通訳、アートマネジメント、制作実践と幅広い活動をしている五十嵐先生の事例では領域横断・手法横断の話が興味深かったです。いろいろな手法を取り入れ活動の垣根を超えることは科学技術コミュニケーションの幅を広げることになると感じました。また、ステレオ写真をテーマとしたワークショップの紹介があり、市民が科学・美術に気軽に触れることができる場の提供について学びました。目で楽しむアートを表現方法として取り入れることは科学に興味がない人が興味を持つのによい糸口になると思いました。

古澤先生による事例紹介

受講生としてもCoSTEPに参加したことがある古澤先生からは、自分が受講生として体験した内容を紹介していただきました。古澤先生が子供の頃から好きなザリガニで何かしたいとCoSTEPに参加してザリガニ教室を行うために周囲の人を巻き込んだ話は、それだけ活動に熱量をかけていたんだなと楽しく聞くことができました。その一方で活動の目的が最初はザリガニの魅力を伝えることと考えていたのが「そこから何を伝えたいか」に変化し、外来種を悪者にしないためにはという視点に発展したことで企画の内容をより深められたことが印象的でした。軸として好きなことを大切にしつつ、それだけで終わらせずに社会とのつながりを意識しながら発展させていくことの重要性を学びました。

また裁判劇の事例から、自分が思いもつかなかった伝達手法を学ぶことができました。私は今まで科学技術コミュニケーターは理系研究者や科学に興味を持っている人の役割と思っていました。しかし実際は科学の得意不得意にかかわらず伝えたいことがある人のためのものだと学びました。また実践のライフサイクルについての解説があり、自分の活動はこれにあてはめられているか確認することができました。企画をするには様々なステップがあります。この流れをしっかりと理解し、魅力的な活動を行えるようになりたいです。また届ける相手が多様であることも提示され、これを参考に参加者がどんな人なのかを考えてアプローチしていこうと思います。

今回の講義から科学技術コミュニケーションには様々な角度からのアプローチがあること、そして自分の専門分野と科学技術コミュニケーションには必ずしも直接的な関係があるわけではないことを学びました。専門にこだわらずいろんな内容や表現の手法に挑戦し、科学だけでなく地域の歴史や安全に暮らすための工夫など多様なテーマを伝えるツールとして科学技術コミュニケーションの方法を模索できたらと思います。


古澤先生ありがとうございました。