鹿毛野乃華(2026年度選科A受講生)
モジュール3-2では、企業教育研究会より市野敬介さんに『「企業と作る授業」 小学校・中学校・高等学校の事例から』という講義を行なっていただきました。
最初は、市野さんの自己紹介も兼ねて「大學生力検定DS」の制作や「東庄町観光大使」の活動などのお話を写真やクイズ交えてしていただき、和やかな空気の中始まりました。

礼文高校の事例紹介
続いて事例紹介をしていただきました。
最初にご紹介いただいたのは、2019年2月に市野さんが出張授業で訪れた北海道礼文高等学校の事例です。この高校には、2000m級の山に生育する植物が海抜0mで見ることができるという礼文島の特徴を活かした、「高山植物」という学校独自の科目があります。
市野さんはこの授業で、外見では見分けがつかない遺伝子組み換え大豆と非遺伝子組み換え大豆をどのように見分けられるかを、生徒たちに考えてもらうという授業を行いました。しかし、高校生にとっては少し難しめの内容であり、中にはあまりイメージを持てない生徒も。そこで、授業のつかみを工夫することで生徒に興味を持ってもらおうとしたそうです。いきなり遺伝子組み換えについての質問をするのではなく、普段私たちが食べている野菜の原種が苦かったり固かったりして食べられるものではなかったことや、品種改良を繰り返し行うことで今あるような美味しい品種ができていること、遺伝子組み換えが品種改良の1つであることを、本題に入る前に説明していきます。このような流れの後に、遺伝子組み換え大豆の見分け方を考えてもらうことで、生徒たちは普段から探究している「高山植物」との関連性に興味を持って話を聞いてくれるようになったのだそうです。
千葉県の小学校の事例紹介
次に、地域の建設業の社長さんと市野さんが小学校で出張授業を行った事例を紹介していただきました。もともと、県の建設業協会の方々が千葉県で建設業の若い担い手が減少していることに危機感を感じていたそうです。建設業は、街を支える職業であり災害の後の復興にも必要不可欠な存在ですが、過酷な仕事というイメージが先行してしまい、本来どのような仕事をしているのかを正しく知ってもらう機会はなかなかありません。
建設業協会の方から依頼を受けた企業教育研究会は、建設業について知ってもらう出張授業を行うことになりました。建設会社の社長さんが解説役、市野さんたちが進行役となり、子どもたちと専門家の橋渡しのような役割で、「専門家にとっては当たり前のことが、専門外の人にとっては当たり前ではない」ということに気付けるような授業を実施しています。
専門家の方達が一般の人に直接伝えようと思っても、専門用語が伝わらなかったり、噛み砕いた説明ができなかったりとお互いに理解のギャップが埋められず、伝えたいことが伝わらず知りたいことが知れないままになってしまうことはよくあります。そこを埋めるのが、市野さんたちの企業教育研究会の役割であり、サイエンスコミュニケーターの役割なのです。

事例研究からわかること
ここまで紹介した事例から、飛び込みで出張授業を行うときに大事なことがいくつか挙げられました。
一つめは、世界観を作ること。対象が子どもなら、子どもたちが自然と興味を持って話を聞けるような場を作ります。例えば、キャラクターが出てきて話しかけることで授業が進行するなどの工夫をします。出張授業のように、子どもたちにとって知らない人が登壇するにしても、キャラクターが出てくる方が子どもが親しみやすく話が入ってきやすくなります。このように子どもたちが夢中になれる場を作るヒントは、遊園地やテーマパークのアトラクションなど、エンターテインメントの世界にもあるそうです。
二つめは、出張授業中に先生と生徒の良い距離感を探ること。出張授業でたまにある場面として、授業中は先生たちが事務作業をされたり、教室の後ろの方で丸つけなどをされたりしていて授業にあまり参加してくれないということがあります。しかし、先生方には、生徒たちの半歩前で授業に参加してもらい、講師の方とやりとりをしたり、リアルなリアクションをしてもらったりすることで、そんな先生の姿を見た子どもたちに「この話は、先生(大人)でも驚くような内容なんだ」と認知してもらう。そうすることで子どもたちも自然と授業にのめり込んでくれるようになります。講師側が、大人を巻き込むことで子どもも巻き込むという方法を取ることで、より良い授業になるということです。
三つめは、子どもにのめり込んでもらうための工夫として、訊き方を工夫するということ。同じ質問をするにしても、いきなり質問を投げるより、その前に具体的な話題を一言加えたり、違う角度で質問したり、最初に大人に訊いてから子どもにも訊いてみたりすることで、より子どもたちが興味を持つ授業になるのではないかということです。

最後に
最後に市野さんは根源的な問いとして、「何かを学ぶことは人間にとって快楽であるはずなのに、なぜ学校の勉強は苦行なのか」という問いを提示しました。
この答えとして市野さんは、子どもたちが学校の勉強が苦痛に感じるのは、学んだことが日常と繋がっていないからではないかと考えています。たしかに、学んだことが日常の中で発見できると、面白いと感じ、さらに学ぶ意欲が湧いてくるという好循環ができます。
市野さんが行う出張授業では、企業とコラボすることで、学校の勉強だけでは体験することのできない「日常とのつながり」を感じる機会を提供しています。
また、誰かと学びを共有する体験は、勉強していて「さらに学びたい」と思うきっかけになります。特に子どもの場合は、親に話して共感してもらったり、驚いてもらったり、褒められたりすることでより一層意欲が湧くようになります。企業教育研究会の出張授業では「お土産」として、子どもたちが家に帰った後に、親御さんと話したくなるような付録がもらえるプログラムもあります。このようなきっかけを提供することで、子どもたちの学びが楽しいものになる場を生み出しています。

市野先生の講義では、一貫して「子どもたちが理科の知識を持つことで、日常の風景が変わるのではないか」という問いに基づく実践事例を紹介していただきました。理解の先にある、学んだことを日常で発見し実際に経験して誰かに共有したくなること。そして共有した後に、相手に喜んでもらえることでさらに学ぶ意欲が高まる。このような好循環を、出張授業などを通して子どもたちに生み出していくという活動を実践しているのが、企業教育研究会であり、市野さんの想いなのです。
市野先生、ありがとうございました!