実践+発信

「オープンエデュケーション科学コミュニケーション」7/26 重田勝介先生の講義レポート

2014.8.1

今回の講義は、北海道大学情報基盤センターの重田勝介先生に、21世紀の教育を大きく変える可能性があるオープンエデュケーション(以下OE)についてお話いただきました。重田さんは理学院の科学教育研究室にも所属し、2014年4月にできた北大OEセンターの副センター長も兼任されています。

OEとは、教材や講義ビデオをWeb上で原則として無料公開し、より多くの人に教育の機会をもたらす取り組みのこと。大学において学生からの授業料でまかなう収入は実はそれほど多くなく、税金による補助金が多くを占めます。大学という公共性の高い組織が、自分のところの学生だけ教育していてよいのか、もっと教育格差を是正するために社会貢献するべきではないかという問題意識も、根底にあります。

OEの進化形として、最近話題にのぼることの多いMOOC(ムーク・大規模公開オンライン講座)があります。MOOCは誰でも受けられる無料のe-learningのようなもので、一つの講座に数万人をこえる受講者が世界中から参加します。

途中で小テスト(クイズ形式)に答え、宿題や試験を堤出して、ある水準に達したら修了証がもらえるところが特徴です。ただ、たくさんの受講者がいるかわりに、修了率も数%と低い傾向があります。

重田さんが今年の7月、JMOOC によるgacco(ガッコ)というプラットフォームで開講している「オープンエデュケーションと未来の学び」では、4週間のオンライン講座に7000人以上の受講者が参加しました。

このシステムに組み込まれた電子掲示板ではかなり活発なディスカッションが行われています。一般的なe-learningではスタッフが書き込んで盛り上げることもしばしばですが、そんな介入が必要無いほど、にぎわっていたそうです。

インターネット上で公開される教材を、OER(Open Educational Resources)といいます。文書、動画、電子教科書などをインターネットで公開し、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどを使って二次利用しやすいように著作権もクリアにしています。こうしたOERを使うことで、例えば、知識習得をオンラインで予習のような形で行い、その確認やディスカッションは教室で行う「反転授業」に活用して学習効果を高めるなど、授業を改善することができます。

学びたい目的にあったサイトを作るだけでなく、ともに学び、教えあうコミュニティを作ることも重要です。OpenStydyはOERを使った学習コミュニティとして有名なサイトです。Mozilla Open Badgeでは、デジタルバッジ(認定証)を交付します。そのバッジは、自分の知識や技能を示すシグナルとして就職活動など様々なキャリアアップに利用できます。大学や企業は、こうした認定証を高校生や留学生、社会人のリクルーティングにも生かせます。

重田さんから、受講生に「MOOCをどのように使えば学習に役立ちそうか。それだけでは足りないものは何か」というお題が与えられ、3〜4人のグループで議論しました。その結果、様々な意見が出されました。

「PC上で完結するような作業は非常にやりやすい」「地域だけの教材が、他の地域や外国で利用される」「子育て等様々な事情で家から出られない人にとって有用」といった利点があげられた一方、「学習意欲による格差が生まれるのでは」「実験操作や医療現場での技術習得などは難しい」「実験系の演習や実習はやりにくい」といった意見もありました。

また「OEをそれぞれの科学コミュニケーションに使うとすればどんなことが可能か」という問いに対しては、以下のような声が上がりました。

「サイエンス・カフェに来られなかった人に視聴してもらい、ネット上で交流ができるのでは」「夜の動物園や深海散歩など、映像を使ってマニアックな授業ができる」「ラボ公開などで、研究室の実験内容を事前に周知できる」「CoSTEPの講義や実習も一部公開できるのでは。ただし、お金を払って受講している人との差別化をどうするか」といった様々な意見が出ました。

いま大学は14世紀の印刷革命以来、2度目の変革期にあると言われています。音声・映像メディア、インターネットの普及によって、誰でもオンラインで教育に参加できるようになりました。相対的で批判的な、現代的な「知」のあり方と、インターネットのオープン性はとても相性が良いと考えられます。

OEは、大学そして社会をどのように変えていくのでしょうか。歴史的なスケールで教育に変革をもたらすOEに、無限の可能性を感じました。

重田先生、どうもありがとうございました。