抽象的な実習名と更新頻度の低さで、謎の集団と思われがちなソーシャルデザイン実習生。成果発表では、ソーシャルデザイン実習班のこれまでの取り組みを振り返りました。今回は、これまでの経験を踏まえて、今後どのような科学技術コミュニケーションを実践したいか、その覚悟について実習生が語ります。
大平朱莉(2021年度 本科SD)
実習生の語り
おおひら:今回ソーシャルデザイン実習の皆さんには、事前に「どんな科学技術コミュニケーターを目指したいですか?」という問いの回答を用意してもらいました。本日はよろしくお願いします!
みんな:よろしくお願いします!
おおひら:早速ですが、五十音順でおはぎから良いですか?
おはぎ:わたしか!(五十音順ならいのうえさんでは…?)わかりました!
おはぎ:はい、わたしは「人々の暮らしの中にコミュニケーションをとけこませる」コミュニケーターを目指したいと思っています。
現状の科学技術コミュニケーションは、人々の日常から一歩はみ出した所にあると思っていて。要は人々の日常や生活の中に溶け込んでいなくて、意識的に目を向けて足を運ばないと、アクセスできない場所にある。一般の人からしたら科学技術コミュニケーションのハードルが高くなってしまっているんですね。
ではそのハードルをどう下げるか、という点で、私は秋に開催したサイエンスカフェや、作成した紹介冊子がヒントになると思っています。
例えばサイエンスカフェでは、あらゆる人々が日常の中で自然と利用するカフェで開催しましたし、紹介冊子も、日常生活の中で人々の目に届く場所に設置しようとしていました。
おはぎ:このことから私は、様々な人の暮らしの中で手に取るものや利用するものの中に、科学技術コミュニケーションを溶け込ませる。そういう活動をしていきたいと思いました。
いのうえ:いいね。おはぎと全く一緒の気持ち。科学技術コミュニケーションのハードルをどう下げるか、いかにして日常の中にスルッと溶け込むか。そういった手法はやっぱり考えたよね。
さかもってぃ:従来の科学技術コミュニケーションでは届かなかった層へのアプローチを、おはぎが実践してくれるんじゃないかと期待しています!
いのうえ:では同じくサイエンスカフェを企画した者として、いのうえ行きますね。
いのうえ:自分は林野庁の職員ということもあって、行政のことはわかっている。それから川上の林業の現場も熟知しているという強みがある。
あとはその強みに加えて、市民や、市民と現場の間にある木材業界の方々、科学的知見を有する研究者、山主さんなど、山林に関わるあらゆる人々を繋げる役割を担っていきたいと思っています。
特に、立場によって利害関係や大切にしているものは異なるので、それぞれが大切にしているものを引き出して可視化して、お互いの理解を深めることに貢献していきたいです。
近年は世の中の地球環境や自然に対する注目度も上がってきていると思います。ただ、具体的にどうアクションを起こしていくかは、より多くの人を巻き込んで一緒に考えていきたいですね。
おおひら:それぞれの価値観を拾っていくことは大切な取り組みですよね。質問ですが、いのうえさんは具体的にどのような手法で価値観を可視化していきたいと思いますか?
いのうえ:インタビューの手法を磨いていきたいと思っています。
SDの活動の中で、インタビューを行う機会が多かったんです。たとえば、北海道の森林保全や木材利用について、専門家にインタビューする動画を作成したりですね。
いのうえ:その時に、自分のインタビュースキルの至らなさもつくづく感じました。また、サイエンスカフェに関する冊子を作成する際も多くの方のインタビューから、限られた文字数でどのようにまとめたらきちんと伝わるのか、創意工夫する中で、言語化の難しさと同時に面白さも感じました。
もうこんな歳ですが、スキルはまだまだ伸ばしていきたいと思っています。
わたなべ:科学技術コミュニケーションに年齢は関係ないですからね。では、流れで発表しちゃいますね。
わたなべ:僕は「生きやすさを一緒に見つける」と書きました。
CoSTEPに入る前、僕は自分の専攻が専門性の高い分野であることもあり、「科学技術とは専門家が教え、市民が教えられるもの」という認識が強かったんです。
CoSTEPに入った理由も、博士課程の進学を決め自分が専門家に近づく中で、他者に専門知識を教える立場としての自覚を持ったことがきっかけでした。
ただ活動していく中で、「そもそも科学技術って何だろう」「果たして科学技術コミュニケ―ションとは、教える・教わるの関係性だけで良いのだろうか」と疑問に思うようになって。
そして、結局科学技術とは、人のため、人が生活するため、人の幸福のために存在するものである、そういうものが根底にあるんだと考えるようになりました。
また、科学技術がそのようなものであるならば、やはりどうしても教える・教わるの関係性立場から脱却したいと考えるようになりました。
例えば秋に実施したワークショップでは、社会課題に対して、あくまで自分の専門領域からは、このような見方ができますと提示しつつ、あとは実際にその場に来てくれた高校生と、一緒に問題を考える経験をしました。
わたなべ:この経験はかなり大きかったです。ワークショップの場では、自分の専門知識を提示しながらも、「教える」ではなくあくまで「一緒に考える」スタンスだったんですね。それこそが今後も取り組みたいスタイルの科学技術コミュニケーションだなって思って。
科学技術は、知らず知らずの内に全ての人の生きやすさに繋がっていると思います。僕らが利用しているあらゆるものの中に科学技術は組み込まれています。ただ、科学技術の最終的な成果だけではなく、科学技術が生み出されていく過程に対しても、一緒に考えていくことで、より世界を生きやすくすることにに貢献できるのではないかと思っています。
おおひら:とても良いですね。質問ですが、教える・教わるの関係性を脱却したいと考えたのは、どのタイミングでしたか。
わたなべ:ワークショップも勿論そうですが、実はそれ以前に受講したプレゼンテーション演習の影響は大きかったです。最初に練習でプレゼンテーションを行った時に、奥本先生にボコされたんです。「何言ってんのかわかんない」って。おそらくその時は、まだ「自分の専門知識を教える」という認識が強かったんですね。
ただ、結局プレゼンテーションもコミュニケーションなんですよね。伝える相手に合わせたプレゼンテーションの組み立て方が必要になる。そこに気づけたことは大きな収穫だったと思います。
さかもってぃ:ワークショップの学びは大きかったですね。つぎに私から発表させてもらいます。
さかもってぃ:わたしは、「異なる立場の人々をつなげて新たな価値を共に創りあげる」コミュニケーターを目指したいと思います。
いま自分はコンサルティング・シンクタンク業界を中心に就活をしていますが、その中でもコンサルタントと科学技術コミュニケーターって似ているところがあると思っていて。
コンサルタントの方々は、あらゆる業界の方と関わりながら、新しい価値の創造をする仕事をしています。この新しい価値を生み出していくことは、実は科学技術コミュニケーターの業務でもあるなと考えるようになりました。
これまでの活動の中で、異なる立場の人同士の交流の中で新しい価値が生まれてきていると思った瞬間は、大和田さんの作品を題材に、高校生と一緒に考えを巡らせた時ですね
さかもってぃ:大和田さんの作品は、一見ただ岩石が置いてあるだけのように見えます。しかし高校生は、その岩石には一体どのような価値があるのかを、いろいろ膨らませて考えていました。
ただ、これって普段高校生が高校生として生活している限り、考える機会は無いですよね。ワークショップを通して、大和田さんというアーティストと出会うことによって、はじめて生まれた行為だと思います。
このように、普段は出会わないような人々が出会うことによって、新しい価値が生まれていく瞬間を現場で目の当たりにしたことで、そのような役割を果たす科学技術コミュニケーターになりたいと考えるようになりました。
わたなべ:さかもってぃとしては、いろんな立場の人を集める役割を担いたいということですか?
さかもってぃ:そうですね。異なる人を集めたうえで、両者の交流に口出しをしたいですよね。ただのプラットフォームになるのではなく、私自身も参画して、内実に入っていきたいと思います。
わたなべ:ありがとうございます。あともう一つ良いですか。さかもってぃは、自分で研究者寄りだと思いますか?それともアーティスト寄りだと思いますか?また、そもそも研究者とアーティストって違うなと思いました?
さかもってぃ:研究者寄りですね。ただ、両者に違いがあるとは、意外と思わなかったんですよね。
アーティストを間近で見てきて、アーティストが行っているリサーチ活動は、実は研究者のとすごく似ているように思いました。
ただ、アーティストは網羅的に・メタ的に捉える一方で、研究者は何か一つの分野に突っ込んでいくイメージで。
私もメタ的な視点を持ちたいなとは思いつつも、自分の専攻である、科学とアートの在り方という一つのテーマに返して深く入っていきたいという意味で、自分は研究者寄りだと思っています。
わたなべ:なるほど。より具体的には、これからどのような存在になりたいですか?
さかもってぃ:結局は、異なる二者間を繋ぐ、のりしろのような存在になりたいと思っています。
というのも、アーティストと研究者のコラボレーションには、必ず第三者が関わっているんですよね。二者だけで上手くいった事例はあまりなくて、何かしらコミュニケーター的な立場の人がいるんです。そういう存在に自分はなりたいし、今後そういう人たちの研究をしたいと思っています。
おおひら:想像以上に盛り上がってしまいましたね。のりしろという表現には感心させられました。では、私も発表させてもらいますね。
おおひら:わたしはざっくり「信頼→可能性!!」と書きました。
もう少し具体的に説明すると、「もっと人々の感性を信頼して、その可能性を潰さないこと」が大切だと思ったんです。
これまでの大学生活では、「人々が対等に話し合うにはどうしたらいいか?」を考えていました。例えばその回答の一つとして、「誰もが論理的な考え方を身に着けられれば、建設的な議論の場になり得るのではないか」と考えて、論理学の授業に夢中になったり。
ただ、それだけではないと考えさせられたのが、ワークショップでした。
ワークショップでは、地球の環境問題を取り扱い、問いに対する答えをそれぞれが発表する場面があって。私たちは同じ作品を見て、同じ説明を聞いたはずなのに、最終的な回答はそれぞれ異なっていて、それぞれ違った面白さがあると感じました。
そして、私たちが暮らす社会は、このようにあらゆる人々の感性によって突き動かされていることを実感しました。それとともに、そういう感性で作られた社会を、わたしたちは肯定的に捉えていいんだと思うようになりました。
立場や関係性によって意見の重みが変わることもなく、一人一人に既に備わっている感性をもっと信頼して、最大限に尊重し合う。それこそが平等な議論の場のあり方なのではないかと考えました。
私はそのような場を作り上げ、人々の可能性を引き出せるコミュニケーターを目指したいと思います。
わたなべ:信頼の構築はすごく大事だと思う一方で、すごい難しいことだと思います。具体的に、どのように良いと考えていますか?
おおひら:相手の意見は自分の意見と全く同じレベルで尊重すべきものである、と考えることが必要だと思っています。例えば相手の意見が自分と意見が食い違っていたり、論理的に矛盾していたりしても、それは違うとすぐに評価を下すのではなく、まずは受けとめること。
自分が何を言っても受け止めてもらえるし、相手が何を言っても受け止める。その関係性を築き上げることこそが、信頼の構築なのかなと私は思ってます。
もし私がワークショップを開催するならば、「絶対に相手の意見は否定しない」というルールを作ると思います。よくあるコーチングの研修内容は、私が取り組みたい活動のヒントになると考えています。
おはぎ:意見を受け止めるという話に関して質問です。現在私たちが行っている展示の自由記述欄に、卑猥な言葉や、他者の意見を否定する書き込みが散見されました。
このような書き込みまで、私たちは受け止めなければならないのでしょうか。
おおひら:率直に、これが社会のリアルか~と思いましたね(笑)。私たちのような、科学技術への関心が強く、さらには科学技術を広げたいと思う層は、かなりマイノリティなんだと、改めて実感しました。
それと同時に、私たちが今までかかわってこなかったこのような人たちも含めて、社会は作り上げられているのだと、ますます思うようになりました。
たしかに、今回の書き込み自体を、われわれの問いに対する回答として尊重する必要は無いと思います。ただ、その書き込みをした人自身を無視しないこと、科学技術コミュニケーションの対象として見放さないことは、大切だと考えています。
今回の展示は、私たちが想定していたよりも難易度が高くなっていたのかもしれません。あらゆる人々の立場になってコミュニケーションのあり方を工夫する、そのような泥臭いコミュニケーションを続ける覚悟を、私たちは持つべきなのかもしれません。
さかもってぃ:今日研究室で、ボードに良くない書き込みがなされていた話をしました。
そのときに、今回の展示では、これまでに科学技術コミュニケーションの対象となってこなかった人達まで対象に入れたからこそ、このような書き込みが増えたんだろうね、と話していました。
書き込み自体は嬉しくはないですが、新たな対象を視野に入れて、世の中のリアルを覗き込むことができた点で、意義のある活動だったのではないかと思います。
そういう意味で、科学技術コミュニケーションはまだまだ伸びしろがあると思いました。
きむら:では、最後に私から発表させていただきます。
きむら:私は、「小さくても沢山の機会や場をつくっていく」ことを大切にしたいです。
これまでに、「科学技術コミュニケーションによって社会を変える」という言葉を聞くと、より大きなインパクトを与えられる手法を用いて、より多くの人に発信しなければならないのではないかと考えていました。
ただその考えは、アートを通じて障害を考える授業に参加して、少し変わりました。
きむら:この授業で行われたディスカッションにて、講師の方々は「障害者に対する差別がなくならなくとも、そのような場が存在すること自体に意味がある」という話をされていました。
そこで、特段大きなことをしようとしなくても、小さくてもいろんな方法でいろんな人に届く、その機会がたくさんあることの方が大事だと気づいたんですよね。
私も研究者の卵としてCoSTEPに参加しましたが、やはりコミュニケーターよりも、研究の方が面白いなと気づいちゃったんですよ。今後は、研究者としてサイエンスコミュニケーションを実践したいと考えたんですよね。
そこでは、自分ができる範囲内で、いろんな方法を使って自分なりに何か届けていきたいと思います。小さくても、その一つ一つの機会を無駄にしないこと。その大切さを、CoSTEPで学ぶことができました。
おおひら:小さくても自分なりのスタイルで、とのことですが、例えばどのようなことを考えていますか?
きむら:今実際に準備段階ですが、植物の写真を撮影して、ワークショップのようなことを、教授とやってみようと考えています。
わたなべ:やっぱりやるんですね!
きむら:はい。これまでの活動のように、アートを通じたものは難しくとも、何かしら自分にできる方法を沢山実践して、それによって誰かに興味を持っていただければと思います。
さかもってぃ:博士課程に進学し、研究者を目指されるお二人(わたなべ、きむら)が、研究成果をただ論文だけではなく、違った形でアウトプットしていってほしいですね。
特にアート作品で研究成果を発表していただきたいですね。私の研究対象にさせてもらいます(笑)
おおひら:まだまだ話したりないかと思いますが、今回はここで締めくくらせていただきます。
みなさん、ありがとうございました!
活動の様子
SCARTSでのワークショップ
サイエンス・カフェとそれに関する取材
Same Same But Different Life展
オンデマンドコンテンツ
最先端の過去
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井上純:独り暮らし高齢者に寄り添う科学技術【AI】と【IOT】
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当日のサイエンス・カフェの模様はこちらからご視聴ください。
Same Same But Different Life展