実践+発信

「社会の中の自然史博物館、社会の中のコミュニケーター」(11/30)佐久間 大輔 先生の講義レポート

2019.12.19

久保田 充(2019年度選科B/社会人)

今回は、佐久間 大輔 先生に「社会の中の自然史博物館、社会の中のコミュニケーター」というタイトルで、博物館が、教育の場・対話の場・政策の実現を目指す場としての役割と現状、可能性について講義していただきました。佐久間先生は「きのこ」が専門の「キノコ屋」という自己紹介から始まり、昨年、大阪市自然史博物館で開催された特別展「きのこ!キノコ!木の子!」の話から、博物館の独自企画展の役割についての話へと進みます。

博物館のゴールとは

先生は、「企画展(博物館)に来て野外へ出かけたくなる、野外で疑問をもち博物館に行く。自然へ導き、気づきを与え、人が育っていくことが博物館のゴール(価値)のひとつだ」といいます。最近の博物館を取り巻く出来事をみると、博物館の価値に対する、社会(市民)と博物館の間のズレによっておこっており、価値の共通認識ができていないことが課題となっています。社会と博物館の溝を解消するには、社会と博物館をつなぐ、「つなぎ手」が重要です。そのためには、博物館を良く知っている人を「つなぎ手」に育てていき、博物館のコミュニティ(社会)を築き上げていくことが大切です。

(大阪市立自然史博物館「友の会」がデザイナーと組んで作成したトレーナー。
“Look deeper into nature. The deeper you go, the more knowledge you know”
「自然を深く観察すればするほど、たくさんの知識を得ることができる」)

周りが元気なら、博物館も元気になる

博物館の活動を活発化するには、博物館の周りの人や組織のネットワークづくりが重要です。先生は、友の会など(「つなぎ手」)の運営が大切だといいます。自分たちの理想(ミッション)を描き、博物館からの指示待ちではなく自分たちで意思の決定をおこない、補助金漬けや自腹ではなく永続的に活動できる経済的なしくみをつくることなどが必要です。元気のある「つなぎ手」を維持するには、独立性が高く、成長していく組織にすることが重要であると強調していました。実際、「つなぎ手」が元気なら、博物館も元気になり、社会への働きかけが強くなっていくそうです。

教育の場、対話の場の拠点として

先生は、博物館にとって利用者や将来世代の声も大切にしなければいけないといいます。市民科学者集団の育成、自然史フェスティバルの開催、子ども向けワークショップの取り組みについての紹介がありました。博物館が市民科学者を支援・サポートし研究活動に巻き込むことによって、博物館と一緒に活動できる人(戦力)を育てているそうです。キノコの企画展でも、博物館が育ててきた市民科学者の協力によって、質の高い標本の収集や保存、展示につながったそうです。自然史フェスティバルを開催し、参加者も2万人を超え、自然が好きな人たちが集まり、自分の研究の発表や、意見の交換をするなど盛り上がりをみせています。コミックマーケットのように交流の場をつくり、お互いの活動の活性化へとつながっているようです。博物館は、納税者や政治家という経営的なステークホルダーや学界などの学術的なステークホルダーの声に引っ張られていた部分もあったといえます。これからの博物館は、利用者や将来世代の声も大切にしていく姿勢が、博物館を元気にするうえでも大切だと感じました。

政策化、合意形成をめざして

博物館はその活動を通じて、現場で得た知識、情報、社会的ニーズをもっています。この経験を、地域の課題に目を向け、政治家や行政といったステークホルダーに届け、実現性の高い政策に近づける(アドボカシー)、「政策化の技術」も期待されている、と先生はいいます。アドボカシーの事例として、「能勢の里山活力創造戦略」や大阪万博に関係する「夢洲まちづくり」について、政策実現や合意形成への博物館の働きかけについて話がありました。

講義を終えて、「博物館のゴールは、自然へ導き、気づきを与え、人が育っていくこと」という話が印象的でした。先日の科学館実習で行った日本科学未来館のアンドロイドの実演展示を前に、科学コミュニケーターの方が、『「人間」と「アンドロイド」の違いは何でしょうか』、という問いかけをきっかけに、人間とロボットの境界線について深く考えるという経験をしました。博物館は、教育・対話の場として、気づきの機会をつくり、過去・現在・未来をつなぐ、役割を担っている、講義を聴いて改めてそう思いました。

佐久間先生、ありがとうございました。