CoSTEPを知ったのはいつだったろう。はっきりと覚えていないが、東日本大震災の後、情報の渦に飲み込まれていた頃のような気がする。科学技術コミュニケーションなるものを学ぶ場所があって、社会人も受け入れている。理工学部出身でなくてもいいらしい。選科にしようか、でも札幌に住むことになったら本科を受講してみたい。そう思いながら日々が過ぎ、タイミングよく札幌への転居が決まった。
学びの1年はあっという間に過ぎた。振り返ると、CoSTEPや科学技術コミュニケーションに目の覚めるような解決策を勝手に期待していた受講前の自分がいた。その後、講義や演習、実習、プロジェクトを通じてさまざまな学びの体験をし、先生方や受講生たちから大きな刺激を受けた。伸び盛りの学生たちと多様な立場の社会人が一緒になって取り組む面白さもあった。終えてみて、華々しくわかりやすい解決策などそこにはないと知った。あったのは、自分の持ち場で試行錯誤しながら科学技術コミュニケーションを実践していこうとする意思の醸成だった。
現在、私は消費者団体の職員として消費者の生の声に接している。消費者・生活者が科学技術をどのように理解し関わりを持っているのかは千差万別だ。命と財産にかかわるような出来事が起きる時もあれば、単純な思い込みや勘違いも多い。効果効能を期待して怪しげなものを買う人もいれば、ニセ科学として一刀両断してほしいという人もいる。個別の事象に法律や政策がからみ、問題の解決が困難な場合もある。緊急時には集団的なパニックの要素が加わる。私の実践の場はなかなか手強いのだ。
受講生は開講式で、「科学技術コミュニケーションとは何だと思いますか?」と問われるだろう。そして、1年をかけて答えを出すよう求められる。私が修了式前に苦し紛れに出したのは、「社会のなかで、より確からしいものの見方にたどり着くための手がかり」だ。新たな受講生にも、自分なりの答えにたどり着く過程をぜひ体験してみてほしい。
なお、自分としては頑張って取り組んだつもりだったのに、後々「あの演習もあのイベントも参加すればよかった!」「視聴可能な過去講義も全部見ておけばよかった…」と少し悔しく思ったので、相当の熱量と計画性を持って学ぶことをおすすめします。
岩野 知子(本科 ライティング・編集実習)
消費者団体職員