選科A「Black PARK」
岩本 凜、西村 華純、福田 佳緒里、三橋 亜紀、山本 法子 & 朴 炫貞
1年前には誰しも想像すらしなかったほど変化した、私たちの世界。
海外はおろか、国内ですら自由に旅をしづらくなる一方、変化した生活様式の中でますます高まる健康意識…
そこで私たちは、この新しい時代の生活の中で食生活や免疫力の面から注目されたものの一つ「発酵食」に着目し、中でも日本の代表的な発酵食である「納豆」について、科学的な側面から伝えることはできないかと思い至りました。
全員が「はじめまして」の状態からオンラインミーティングのみで相互理解を深め、長時間にわたる議論や紆余曲折を経た結果、オンラインによる時空間を超えた「旅」という形で、「20世紀初頭の北大」「現在のアジア辺境地」「未来の砂漠」という3つのスポットにおいて科学的・歴史的・民俗学的側面から納豆にアプローチすることで、視聴者が旅を楽しみながらサイエンスへの気づきを得ることを目標に、本イベントを立案しました。
<オープニング>
まずは日常空間からオンライン参加をしている参加者に対し、非日常の旅への思いを馳せ、イベントの世界観にスイッチしてもらうきっかけとして、「あなたは最後(直近)に、いつ・どこへ旅をしましたか?」という問いかけをしました。
ZOOMのコメント欄と、ライブ放送されているYouTubeのコメント欄への書き込みで回答を募ったところ、約30件の回答を得ることができました。回答からは、近くの山や海も旅の目的地となりうることや、今年の初めまではギリギリのタイミングで海外を旅した人も見られた一方、自粛期間はやはりどこにも出かけられず、再び夏頃から少しずつ旅に出かけているという様子を伺うことができました。
<納豆と、旅をする>
さて、いよいよ納豆とめぐる旅へと出発です。
近代納豆の幕開けをたどる旅 ~1918年の北海道大学へ~
1918年の北海道大学を目的地として、後に納豆博士とも呼ばれる半澤洵教授の紹介から始まりました。
半澤教授は日本における近代納豆製法の第1人者であり、図らずもCoSTEPの舞台となっている北海道大学で納豆菌(枯草菌)の研究を行った人物で、衛生的で効率的な納豆の作り方のほか、納豆の製品パッケージの監修なども手掛けていました。
パッケージの中には「バターにていためオムレツ又はライスカレーの原料として御使用下さい」などと、納豆を使った料理のレシピも書かれており、実際に調理されたものを旅の食事として提案するという形で紹介しました。
納豆のルーツをたどる アジア辺境の旅
この旅ではまず、納豆はアジアの辺境食であると言われていることについて解説したのち、「標高500m~1500mかつ森林である地域=辺境地」とされていることから1)、GISを用いてアジアにおける標高500m~1500mの地域と森林域を抽出し、さらに両者が重なる地域を抽出することで「辺境地マップ」を作成しました2)。
続いて多様なアジアの納豆について、その種類の多さを写真で示しながら紹介しました。
アジアには多種多様の納豆があり、韓国のチョングッチャン、中国湖南省の豆鼓、ミャンマー・ナガ産地のチュシュエ、ミャンマー・タウンジーの碁石納豆、タイ・チェンダオの蒸し納豆、タイ・チェンマイのせんべい納豆、インドのバーリュ、ネパールのキネマなど、その数は日本人が想像しているよりも多いことがわかりました。
そして、先ほど作成した辺境地マップに、アジアで作られている納豆の分布を重ねてみると、見事に一致!
やはり納豆はアジアの辺境食である、ということが示唆されました。
また、発酵させる際に用いる納豆を包む植物についても、日本と韓国の納豆は稲藁を使う一方で、アジアでは多様性があり、シダやイチジク、バナナなどの葉を用いることや、アフリカでもバオバブの実などを使った納豆があること3)も紹介しました。
納豆でリゾート化 エチオピアのダナキル砂漠への旅
最後の旅では、納豆がこれまでのように食品として消費されるだけでなく、将来的にエコマテリアルとして砂漠地域で活用されるというプランを示しました。
ダナキル砂漠は夏の気温が50度を超えるといわれ、人間が住める最も暑い場所としてギネス登録されているにもかかわらず、極限の地ならではの景観の美しさで旅行者に人気の砂漠ですが、この旅では厳しい環境でも人が快適に旅行できるように、納豆の性質を活かしたテクノロジーでオアシスをつくることを提案しました。
納豆のネバネバ部分に紫外線を当てるなどして加工した「納豆樹脂」は、市販の紙おむつの5倍の吸水力を持っており、砂漠に降る貴重な雨水などをこの物質を使って保水することで、保水の難しい砂漠の環境をオアシス化できる可能性を秘めているため、ここでは納豆の性質を活用した未来の旅の可能性をも提示しました。
<エンディング>
ここで「4つめの旅は、みなさんの番です!」と呼びかけ、「納豆×○○で旅をする」という問いかけに対し、再度参加者から自由な発想での回答を募りました。以下に、事後アンケート結果と共にカテゴリー別にまとめたものを示します。
今回のイベントでは、日常的なもの(今回は納豆)をきっかけに自由な時空間の中で思いをめぐらせることを「新しい時代の新しい旅」として提案しました。
このイベントが、どんな時でも、どこにいても、自由に世界を広げられるのだということへの気づきとなることを願っています。
みなさんどうぞ、よい旅を!
<アンケート結果>
<グループワークについて>
当初は、メンバーが顔を合わせ、集中演習の中でイベントを作り上げていく予定でした。ところが今年は新型コロナウイルス感染症対策のため、一度も実際に会う機会がなく、班内の関係構築に苦慮しました。
社会人が多かったことから、活動できる時間に制約があり、打ち合わせは毎回深夜。実はこれがチーム名「Black PARK」の名前の由来です。
オンライン会議では、次々と浮かび発散していくアイデアや情報を、どう収束していくかが大きな課題でした。
イベントを通して達成したいヴィジョンをメンバー全員が共有し、各自のキャラクターを活かした的確な役割分担を行いながら企画と準備を進めていくことの大切さを痛感しました。
反省点は多々ありますが、困難が多かったからこそ、イベントをひとつの形として開催できたときには声をあげて喜び合うほどの達成感がありました。
今回のイベントをとおして学んだたくさんのことを、今後にも活かしていきたいと思います。
<参考文献>
1)高野 秀行(2016), 謎のアジア納豆, 新潮社
2)地理院タイル, https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html
3)高野 秀行(2020), 幻のアフリカ納豆を追え!, 新潮社