阿多郁子(2020年度選科A)
演劇×科学技術コミュニケーション…新型コロナウイルスが拡大する前、年間15本以上の様々な舞台を観ていた私には、今学んでいる科学技術コミュニケーションと大好きな演劇のコラボレーションは、本当に興味深いものでした。その夢のようなコラボを観劇したのは11月15日日曜日。その日、サイエンスアゴラ内での1イベントとして、弦巻楽団×北海道大学CoSTEPコラボレーション企画「インヴィジブル・タッチ」がオンラインで上演されました。
実は、サイエンスアゴラをCoSTEPに入るまで知らなかった私。サイエンスアゴラとは、あらゆる立場の人たちが参加し対話する科学と社会をつなぐオープンフォーラム。今年は、11月13日(金)~11月22日(日)にオンラインで行われました。(11月13日14日はプレアゴラ期間)
今回オンラインで観劇した「インヴィジブル・タッチ」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、とある集合住宅で新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAを導入するかの可否を住民が話し合うというお話。ファシリテーターの古澤先生(現 立教大学)と種村先生(北海道大学CoSTEP)が前説で今回の演劇について等のお話してくださった後、第一幕が始まりました。
2020年8月、集合住宅「ラポール1号館5階」の住民会議でCOCOAの是非について3人の話し合いが始まります。個人情報の流出について、アプリを入れた事による行動抑制について、陽性になった事による差別や風評被害について、PCR検査体制についてなどの意見が住人から出ます。それぞれの立場や環境によって考え方が違ったり、導入に関しての意見が割れたり、相手の意見に揺さぶられたりしながら、話し合いの末、3人はCOCOAの導入には賛成、ただし強制はしないという結論を決めます。
第一幕の演劇の中で、私達が普段新型コロナウイルスに関して疑問に思っている事などを住人が話し合っていたので、観客は住人の意見に共感したり疑問に思ったりと、演劇の世界にどっぷり浸かりながら、新型コロナウイルスやCOCOAについて学んだり、知識の整理ができたと思います。
第一幕終了後、再びファシリテーターの種村先生と古澤先生が登場。今回は、第一幕と第二幕の間にZOOMのブレイクアウトルームを使って少人数で話し合うという非常に面白い企画だったため、私もYouTubeでの観劇ではなく、事前に申し込みをしてZOOMで観劇し、話し合いに参加しました。話し合いのテーマは「この集合住宅の2号館の住人であるあなたは、全体でのCOCOAの導入に賛成か?反対か?」というもの。
説明のあと、それぞれのブレイクアウトルームへ。私のブレイクアウトルームでは初対面の4人での意見交換となり、3人が賛成で1人が反対という意見となりました。賛成の主な理由は、みんなでアプリを入れた方が効果が出るから。しかし、賛成にしたけれど反対と迷ったという人もいて、アプリを入れることにモヤっとする、行動が制限されることがいやだ、という意見も出たので、私たちは、導入に賛成ではあるが強制にはしないという結論を出しました。
15分間のブレイクアウトルームでのディスカッションが終わり、全体でのセッション。各グループの進行役が自分たちのグループでの意見をZOOMのチャットに書き込んだのですが、8グループ中3グループが反対、1グループ(私たちのグループ)が賛成、4グループがグループ内での意見が半々という、予想以上に意見が割れるという結果になりました。
ここでも様々な意見がでましたが、中でも、実際にマンションの理事長をやっている方の「自分の意見としては反対だけれども、理事長として全体を考えたときには導入した方が良いかも」という意見は、立場による違いが現れていて、非常に興味深く感じました。今回、同じ演劇を見ていた人がこれだけ様々な意見を持ち、感じていた事を知り、驚きと興奮がありました。普段、観劇したお芝居について話し合う事は、友人と一緒に行かない限りなかなかできません。しかも今回は、初対面の人との話し合い。どうなるのかと思いましたが、活発な意見交換ができ、時間があっという間に過ぎました。
第二幕の舞台は、2020年10月。再び会議室に集まった3人。そこで、集合住宅の住人の一人が陽性だという話になります。さらに、集まった3人のうちの一人がCOCOAを入れていなかった事もわかり、取り乱す住人も。もう一人の住人は実は母親が陽性となり、濃厚接触者としてPCR検査を受けて陰性の判定が出ていたことも発覚。混乱の中、一本の電話が。その電話で、実は陽性だと噂されていた住人は陽性でない事がわかります。冷静になり、右往左往している自分たちに気づく3人。コロナに負けを認めて、その上でできる事をやるしかないという結論に達したのでした。
身近に陽性者が出た事でこれだけ混乱が起きるということを演劇を通して目の当たりにし、自分が同じ状況になったときにどうするのか?と、自分事として捉えることができました。そして、様々な考えがあり、どれも正解で、その中で臨機応変に様々な事を考えていく必要があると思いました。
今回、演劇×科学技術コミュニケーションへの興味で参加したイベントでしたが、科学のテーマを演劇で訴えかけることについての面白さ、そして大きな可能性を感じました。また、お芝居について話し合う事で、自分の意見が整理され、より深くお芝居を理解でき、自分の中に残るものとなりました。今後も、演劇×科学技術コミュニケーション、見続けていきたいと思いました。
今回のイベントは、サイエンスアゴラ2020のYouTubeでアーカイブを見る事ができます。話し合いに参加する事はできませんが、このイベントを見て、自分ならどうするのか、是非考えてもらえたらと思います。
*コラボレーション企画 弦巻楽団×北海道大学CoSTEP「インヴィジブル・タッチ」は2019年度 科学研究費助成事業 基盤研究(C)「演劇を用いた科学技術コミュニケーション手法の開発と教育効果の評価に関する研究(課題番号 19K03105)」(研究代表者:種村剛)の助成によって実施された。