2020年12月1日(火)、青木茂さん(北海道大学 低温科学研究所 准教授)と上村洋一さん(アーティスト)をゲストにお招きした、第115回サイエンス・カフェ|オンライン「氷のしらせ、地球の未来 ~科学者とアーティストが見た自然~」の動画を公開しました。南極地域観測隊長を務めた科学者の青木さんと、アーティストとして人間と自然の関係を考察してきた上村さん。自然に対する異種のまなざしが交錯し合う対話の場になりました。
まず、青木さんに、第61次南極地域観測隊での調査を解説していただきました。現在、東南極にある「トッテン氷河」の氷床がはげしく溶け出していることがわかっています。そのメカニズムの解明は、海水面の上昇の予測にとって極めて重要です。この類の話しを耳にすると、地球温暖化による気温の上昇が海水面上昇の要因であるという説が即座に思い浮かぶでしょう。ところが、青木さんが着目するのは、気温の上昇ではなく、海です。海が氷を底面から溶かすことによって氷のはげしい流出が引き起こされている可能性があるのです。この仮説をめぐる調査が第61次南極地域観測隊の調査における青木さんの目的でした。
しかし、南極の自然の猛威は容易な観測作業を許しません。厳しい自然環境を相手にした調査には、世界屈指の砕氷船「しらせ」や最新鋭の観測機器による支えがありました。そして、オーロラなどの美しい情景との出会いも時に訪れます。青木さんはこうした研究を「人と地球の未来を考える」ものとして位置づけ、その厳しさや楽しさをさまざまな側面から紹介してくれました。
次に、上村さんからは、これまでつくられてきた作品の背景にある発想、そのような発想が生まれてきたご経験を解説してもらいました。20代前半で大病を患った上村さん。その治療の際に出会った「温熱療法」から着想を得た作品「温熱療法 Hyperthermia」をまず紹介していただきました。次に、かつて知床にあった「流氷鳴き」の現象から影響を受けた作品「息吹の中で」を解説していただきました。ここでもまた「熱」をキータームとして作品の魅力を示していただきました。
最後に、フィールドレコーディングという行為にかんする上村さん独自の解釈が提示されました。上村さんはフィールドレコーディングを「瞑想的な狩猟」と呼びます。一方で、フィールドレコーディングは、自分の録りたい環境音を現場でとっていくという、狩猟に似た動的な行為です。他方で、それは、レコーディング中に音を出さないように静かに一所にとどまり続けることが必要になる静的・瞑想的な行為でもあります。このフィールドレコーディングのもつ両面性をもとに、コロナに困惑する社会で生きていくためのヒントを上村さんは示唆されていました。
そして、青木さんと上村さんによる対話パートです。上村さんからは、流氷・氷山・棚氷などのちがいや南極での生活について質問がありました。次に青木さんからは、熱と氷という一見対立するものをつなげようとする上村さんの発想、そして上村さんの音へのこだわりを掘り下げる質問がありました。科学とアート、人間と自然との関係を問い直す二つの視点が交錯する対話となりました。ぜひ動画をご覧ください!