折登いずみ(2020年度 本科/学生)
モジュール6は「社会における実践」をテーマに、さまざまな分野で科学技術コミュニケーションに取り組む実践者の方々にお話をうかがいます。今回の講師は、札幌でSDGsの普及に携わっている札幌市環境局の佐竹輝洋(さたけ・あきひろ)さんです。SDGsの基本的な考え方から実践例にいたるまで網羅的にお話しいただきました。本レポートでは、講義の内容のうち特に私の心に残ったところと、私の中で起こったSDGsに対する考え方の変化についてお伝えします。
1.世界を変えるキーワード「SDGs」
地球環境についての良くないニュースは絶えませんが、一体どのくらい危機的状況なのでしょうか。講義では、いくつかの象徴的な指標をもとに説明がありました。例えば、”Earth Overshoot Day”と呼ばれる、その年に地球が生産できる資源やCO2吸収能力を人類が使い尽くす日はだんだん早まっていて、2020年は8月22日を境に地球の許容量を超えてしまったそうです。地球の数に換算すると、現在の私たちはたった1個の地球の上で、地球1.6個分を消費する生活をしている計算になります。なるほど、これは確かに危機的です。
このような世界を変えるために、2015年に国連で採択されたのがSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)。2030年に向けて持続可能な世界を形成するための世界共通の目標です。環境、社会、経済の問題を統合的に解決することを目指し、国や企業、自治体だけでなく私たち一人ひとりも含めたすべての主体が取り組む必要があります。
SDGsの理念にあるのは “No one will be left behind (誰一人取り残されない) ” という考えです。「誰一人」にはお年寄りや社会的弱者のみならず将来世代も含まれます。未来の子どもたちを取り残さないために、いまを生きる私たちの行動が問われています。
2.企業がSDGsに取り組むメリット
持続可能な世界を形成することの必要性は理解できても、その主体にとってメリットを感じづらければ実際に取り組むことは難しいものです。SDGsは一見、直接的な利益には繋がりにくいようにも思われます。では、利益を追求する企業にとってSDGsに取り組むことにはどんなメリットがあるのでしょうか一般的にSDGsへの取り組みは社会貢献活動のひとつだと思われがちですが、佐竹さんによればそれ以上に「企業価値の向上」と「リスク低減」という2つの大きなメリットがあるそうです。
背景にあるのは投資傾向の変化です。近年では持続可能な開発かどうかが、投資先を決める際の重要な評価ポイントとなっています。環境、社会、ガバナンスといった要素を考慮するESG投資や、将来性のない事業への投資をやめるダイベストメントが広がるなかで、SDGsに取り組んでいない企業にはお金が回って来ないという日も近いのかもしれません。
しかし、中小企業においてはSDGsの認知度すらかなり低いのが現状です。このままでは、市内企業の99%を中小企業が占める札幌市でも、SDGsのトレンドに乗り遅れる企業が続出してしまいます。それを避けるために、札幌市は率先してSDGsを推進し、自らが見本となりながら、市内企業へのはたらきかけを行っているそうです。企業はSDGsに取り組むことで将来に渡って安定したビジネスを展開できるようになり、そのことがさらに市民の生活の質の向上やまちの魅力の向上にもつながる。そんな好循環を、佐竹さんは思い描いています。
3.分野を超え、国を超えるSDGs
SDGsには2つの大きな強みがあると感じました。
1つめは異分野協力の合言葉になることです。SDGsの目標は分野を超えて17個あります。それぞれ目標達成のために別々に活動している団体どうしが、SDGsの名の下に連携できるチャンスがあります。分野を超えた協力から、新しいアイデアが生まれる可能性も秘めているといえます。
2つめは世界レベルで成果を認め合えることです。SDGsが世界共通の目標だからこそ、企業や自治体は取り組みの成果を国や地域を超えて発信できます。たとえば、目指す将来像として「次世代の子どもたちが笑顔で暮らせる持続可能な都市『環境首都・SAPPORO』」を掲げる札幌市は、内閣府の「SDGs未来都市」に選ばれたり、世界の都市のサステナビリティを評価する「LEED for Cities and Communities」でプラチナ認証を受けたりと、実績を挙げています。このように自治体の取り組みが世界で認められることは、まちの価値を高めることにもつながるのです。
4.私にも世界をちょっと変えられる!
世界に23億人いる1998~2016年生まれは「ジェネレーションZ」と呼ばれ、デジタル・SDGsネイティブ世代として今後10年の消費動向を変えるといわれているそうです。
1999年生まれの私もその一人。実際、SDGsは高校時代に教科書で学んだことがあり、知識としてはすでに持っていました。しかし、本講義で身近な自治体や企業がSDGsに取り組んでいること、そして自分もそうした取り組みを応援できる存在であることを知り、SDGsは私も少しは貢献できるような目標なんだと気がつくことができました。
これからは世界を動かす一人の消費者として、就職希望者として、日々の選択に「これって10年後の地球のためになるかな?」という観点を加えてみたいと思います。私にも世界をちょっと変えられるかも……!と考えるとわくわくしてきます。将来の地球を慮るうえで、とてもポジティブになれる講義でした。佐竹さん、ありがとうございました。