実践+発信

本当のスタート地点に立つためのCoSTEP選科A

2021.3.30

私とCoSTEPとの出会いは、2019年夏に開催された第108回サイエンス・カフェ札幌「ムシの居所が問題だ。~エキノコックスとの付き合い方~」に参加したのがきっかけです。先生方が壇上で楽しそうに掛け合いを展開する傍らで、大掛かりなビジュアルツールを出し入れしたり、参加者からの質問を手際良く整理するCoSTEP受講生たち。彼らの動きをフロアから目で追っているうちに「大学を頼ってこんなことができるってめっちゃ面白そうじゃん」と興味を掻き立てられました。聞けば、CoSTEPにはイベント企画・開催のプログラムだけでなく、科学と社会をめぐる問題を扱う講義もあるとのこと。その頃、科学技術の倫理学問題をテーマに新たな研究プロジェクトを立ち上げたばかりだった私は、これは受講するっきゃないと出願し、CoSTEP16期 選科A(サイエンスイベント)の枠に滑り込んだのでした。

そんなこんなで始まったCoSTEPでの一年。この体験記を執筆している2021年3月現在も続く新型コロナウイルス感染症との戦いの一年でもありました。科学的知識をどのように受け取り、伝え、そしてどう意思決定に反映させるべきか。私たちの誰もが当事者である問いです。ところが講師や受講生によって考える切り口や重点を置くステップがまったく違う。普段極めて同質性の高いコミュニティで研究生活を送る私にとって、ピシッと型にはまっていた思考方法や自分が担うべき役割像のようなものが混ぜっ返される場面が講義でも演習でも多くありました。ここからは、特に選科Aの演習を通して得た学びとこのコースのおすすめポイントをいくつか紹介します。

1.多様な専門家/生活者の目線で企画をつくる

選科Aには全国津々浦々から色々な専門・職業の方が集まります。「誰に」「何を」伝えたいか。そのためにはどんなサイエンスイベントが相応しいのか。それぞれのイメージを持ち寄って一つの企画を練り上げる過程では、一人では決して浮かばないような問いかけがメンバーから出てくることがあります。

「このアプローチだとこういう方は傷つくのではないか」

「このパートはもっと幅広い参加者が楽しめるようにできるんじゃない?」

このように異なる専門家/生活者の目線が交差するからこそ深まる選科Aの演習。普段自分と同じような方と仕事や活動することが多い方におすすめです。

(サイエンス総選挙管理委員会メンバー)
2.新しい手法・表現に挑戦する

完全オンライン開講となった2020年度の選科A。作り上げるサイエンスイベント自体もオンライン開催となったため、オンラインでできること、オンラインならではのリスクに注意を払いながら表現を探っていく必要がありました。パワーポイントを使った動画撮影、フリー素材をフル活用しながらの動画編集、Web会議システムZoomの機能拡張など、メンバーそれぞれが新しい手法を試し、相互にフィードバックしあいながら本番直前まで修正を重ねました。多少失敗しても一緒に解決策を考えてくれるメンバーがいる。職場でも習い事でもない、CoSTEPだからこそできる挑戦がたくさんあります。

(人と地球にやさしく党の政見放送)
(イベントでは総選挙のリスクや可能性についても触れました)

3. 事後検証あってこそ立てる本当のスタート地点選科Aのサイエンスイベントでは参加者を対象に事前事後アンケートを実施し、イベントの効果を検証します。「とりあえずサイエンスイベントをやってみた」でおしまいではなく、イベントを評価するところまでが1サイクルなのです。私のグループでは目標通りの結果を得られなかった項目もありましたが、こうした事後作業をやってこそ認識・行動変容の難しさを実感するとともに、次の活動に向けた課題を見定めることができます。単なる充実感では飽き足らず、確かな活動につなげたい方にとって最適なプログラムではないでしょうか。

科学コミュニケーションには「自分の専門や強みを生かせることだけをやりたい」という心意気だけでは行き詰まる場面が多くあります。CoSTEPの講義・演習は、これから協働する相手に歩み寄って自分の想像力が及ぶ範囲を広げ、自分にできることを少しずつ増やすためのヒントや機会の宝庫です。

小林 知恵(選科A)

北海道大学大学院 文学院 博士後期課程