それは「冒険」だった。
CoSTEPでの一年を一言で表そうとあれこれ考えて、最後に残った言葉だ。
受講当初抱いていた、「専門性の高い人たちとのコミュニケーションを体系的に学びたい」という動機と比べると、随分印象が違う。
事実、受講前後でCoSTEP、そして科学技術コミュニケーションに対する気持ちは、大きく変わった。
ひとつ、どの位の変化があったかの例を挙げたい。
CoSTEP受講前の面接のときに私は、受講後の科学技術コミュニケーションとの関わり方について、「誰かのやるイベントのお手伝いとかで関われたら良いと思う」と伝えていた。
ところが修了時には、自分から修了生コミュニティを作って、「色々な科学技術コミュニケーションの場が生まれるようにしたい」と積極的に動き出している。
これはCoSTEPでつくづく実感したことだが、誰かの具体的な行動を変えるのはとても難しい。
その難しいはずの行動変容を、CoSTEPでの冒険は私に起こした。
さて、「CoSTEP16期 対話の場創造実習」で私がどんな冒険をしたのか、少しだけ紹介したい。
冒険の扉を開いたのは、受講前の面接での「科学技術に関して感動した経験について教えてください」という問いだった。
面接時の回答には全く納得がいかず、結局、この問いに一年を通して向き合うこととなる。
そしてこの問いは、私の心を掴み、今もなお対話における「問い」の重要性を実感させてくれている。
その後は冒険の仲間たちとの出会いがあった。
仲間たちは全員が学生や院生で、自分より年下であったから、最初は色々と遠慮していた。しかし、いつの間にかそんなことは忘れて、違う背景を持つ多様な仲間と笑い合い、ぶつかり合い、ちょっと泣きあったりもしつつ、対話の場の創造に挑戦できた。
冒険を導いてくれる先生達がいた。
先生達はあれこれと冒険の行き先を決めることはなかったが、先行きが見えなくなったときには、そっと手がかりを見せてくれる、そんな素晴らしい導き手だった。
対話の場を創造するために作った2つの企画をとおして、失敗と達成を体験した。
ひとつ目の企画では、想定していた参加者である小学生の参加を促すことには失敗したものの、科学技術コミュニケーターとして、「研究者」と対話ができたという手応えを得た。
ふたつ目の企画では、対話から何かを生み出すことの難しさに直面したものの、最後には、対話から何か素晴らしいものが生み出される「予感」を得た。
決して冒険は順調ではなくて、寄り道の多い旅路だったが、多くの宝物を見つけることができた。
そして、一年前の春、「日常」に少しだけ退屈を覚えていた私は、CoSTEPという冒険に行って帰った今、「日常」にわくわくを感じるようになった。
最後にふたつ、CoSTEPの受講を考えている方々にメッセージを贈りたい。
ひとつ目。
CoSTEPに参加すれば、そこにはめくるめく冒険が待っている。
その冒険は、皆さんの日常に少なからず彩りを与えてくれるはずだ。
ふたつ目。
冒険から得る学びの真価は、定型的な知識ではない。
CoSTEPに参加することを決めた方はぜひ、自分だけの学びを形作ることに挑戦してほしい。
いつか、それぞれの冒険を終えた皆さんと、刺激的な対話をできる未来を祈念し、この体験記の結びとしたい。
松橋裕太(本科:対話の場の創造実習)
地方銀行職員