実践+発信

井の中の蛙、大海に踏み出さんとす

2021.3.30

「それが社会にどう役立つの?」自分の研究について話すと、決まってそんな顔をされます。社会のためだけに勉学に取り組んでいるわけではないですが、社会にどう役立つか明確に答えられないとどこか心がモヤモヤします。そして大学院に入学するにあたり、このモヤモヤを抱えたままでは気持ちよく研究できないと思い至りました。「自分の研究が社会にどう役立つのかを知りたい。」CoSTEPの受講を決めたのはそんな思いからでした。

CoSTEPでの学びは、まさに新しい世界との出会いでした。

講義では、研究者から科学技術コミュニケーションの実践者まで幅広い方々からの、社会と科学技術の関係についてのお話を拝聴しました。講義を一つ受けるごとに新たな発見と学びがあり、社会をみる視野が広がっていきました。それから、CoSTEPの受講生とお話するとみなそれぞれの視点で科学と社会について真剣に考えており、そこから得た新たな視座は数えきれないほどです。CoSTEPは、アカデミックな世界に閉じこもりがちだった私に、社会という大きな世界を見せてくれました。

(対面でディスカッションできた数少ない一幕。実習にて)

いいえ、見せることだけではありません。連れ出すことまでしてくれました。

本科にある4つの実習の中から私が選択したのは、ライティング・編集実習。実習で書いたのは、大きく分けて書評と取材記事の2種類です。前者では本の著者、後者では取材相手、そして両者ともに読み手となる人々、これだけ様々な人に対して想像力を巡らせながら書いた経験は初めてでした。この実習での経験が、社会に対する想像力のかけらもなかった私が、実際に社会へと一歩踏み出す契機となりました。

(北海道大学の学生に取材中の一幕)

それらCoSTEPでの学びは、受講前の想像のはるか上をいくものでした。

CoSTEPが始まる前、コロナ禍でいかほどの学びが得られるのか、正直不安もありました。しかしいざプログラムが始まると、その不安は一瞬で消え去りました。大半はオンラインでありながらも、「コロナのせいで・・・」などと考える暇が無いほどに充実したプログラムだったからです。それを実現してくださった教員の方々の、コロナでもできる学び、コロナだからこそ必要な学びを最大限届けようと尽力する姿勢からも、多くを学ばせていただきました。と同時に、オンラインでもこれだけのことができ、これだけ人とつながれるのだと、勇気もいただきました。

その勇気の後押しも受けながら、次なる一歩を踏み出します。

CoSTEPは、科学技術コミュニケーションを一つのキーワードに、社会をみる視野はもちろん、アカデミアをみる視野をも、ぐっと押し広げてくれました。CoSTEP受講以前にみていた世界のなんと狭かったことか!でもまだ、広大な世界の入り口に立ったに過ぎません。まずは、自分の研究を社会にどう「役立てて」いくのか。それは、CoSTEPを修了した今私が抱えている、チャレンジングでやりがいのある、次なる課題の一つです。

細谷享平(本科:ライティング・編集実習)

北海道大学大学院理学院 修士1年