実践+発信

34回三省堂サイエンスカフェ『気づける不思議、見逃す仕組み認知心理学から広告を読み解く~』を開催

2022.3.7

2022年3月2日18時半より三省堂書店札幌店BOOKS &CAFEで、第34回三省堂サイエンスカフェin札幌「気づける不思議、見逃す仕組み~認知心理学から広告を読み解く~」を開催し、約12名が参加しました。ゲストは北海道大学大学院文学研究院教授の河原 純一郎さんです。聞き手は、奥本素子(CoSTEP准教授)がつとめました。

(右から奥本、ゲストの河原さん、学術会議会員の宇山さん)
無意識システムと意識システムの違いからくる見逃すメカニズム

私たちは普段広告の何に着目し、どんな情報を身をとしているのでしょうか?河原さんははじめにいくつかの広告動画を見せてくれました。その後、河原さんが参加者に問いかけます。さて、皆さん、この情報に気が付きましたか?と。

それは広告の隅っこに小さく表示されている注意書きです。「打消し表示」と呼ばれるこの表示は、商品のサービス内容や取引条件を消費者にアピールする「強調表示」を用いる場合、対象商品・サービスの全てについて、無条件、無制約に当てはまるものと一般消費者に受け止められるため、仮に例外などがあるときは、その旨の表示(いわゆる打消し表示) しないと、景品表示法上問題になるといわれています注1)

ただ、実際のコマーシャル動画では、私たちは華やかな商品情報に目が行き、なかなか打消し表示にまで注意が向きません。河原さんの研究では、たとえ文字サイズを大きくしたところで、人々が注視することは難しいという結果になりました。そもそも人々の注意を向けるシステムとは、色や大きさといった物理的条件ではなく、周りの状況との「差」によって生まれると、河原さんは語ります。

 

 

河原さんは私たちの認知には二つの意識システムがあるといいます。突然大きな音がなると物音がする方向に注意したり、一つだけ色が違う記号が混ざっていると自然にそちらに目が行ったり、意識しなくても私たちの注意が向く「無意識システム」。一方、「意識システム」は構えていないと見逃してしまい、情報の意味内容で取捨選択できるものの、処理速度や量に限界があります。重要な情報だけど見逃してしまったり、他の情報に気がとられて気が付かなかったりするのは、私たちの心が「無意識システム」と「意識システム」の両方で成り立っているからなのです。

気が付くための3つの要因

無意識システムはなかなか自分ではコントロールするのが難しいものです。ただ、どのような場合に無意識システムが働くのかを知っておくだけで、自分が求める情報を適切に得る工夫ができるかもしれません。

 

 

河原さんは3つの要因を教えてくれました。一つは「モノの要因」、人は周囲の情報と差がある場合に、その情報に気が付きやすいといいます。河原さんは、同じ赤でも黒の中に赤がある場合と、朱色の中に赤がある場合を見せてくれました。周囲と差がなかったら、赤い色であっても私たちの気づくスピードは遅くなります。

次に、構えていないものを見落としてしまう「意図の要因」があります。被験者にランダムに黄色い矢印、青い矢印どちらかを注目するようにと指示したうえで運転シミュレーターで運転してもらったところ、突然黄色または青色のオートバイが向きを変えた場合、注目する矢印と違う色のオートバイだと衝突する確率が高くなるという先行研究があります注2)。注目するものがある場合、それ以外を見落としやすくなるというのも、私たちの意識システムの大きな特徴です。

最後に私たちは自分の経験から価値観やイメージを持ち、無意識に情報を取捨選択してしまっている「過去の要因」というものがあります。例えば、創業○○年と書かれたお蕎麦屋さんには自然に信頼を寄せてしまったり、テストの時にスマートフォンを横に置くと作業に集中できなかったり、河原さんはご自身の研究室で行われるユニークな実験結果を共有しながら、私たちの「過去」が気づきに与える影響について解説してくれました。

認知の仕組みを理解したうえでの注意

私たちの意識システムは、ついつい見逃してしまう仕組みを備えています。ただ、その仕組みがあるということを知っていることによって対策を講じることができる、と河原さんは語ります。例えば、短い動画や、強調表示が巧みなオンラインショッピングなどの場合、どうしても細かな情報を見落としがちです。いざ購入するとなった場合は、ゆっくりと時間をとって検討する、商品情報はいったんスクリーンショットのような形で保存してから考えるという対策を教えてもらいました。

本カフェは日本学術会議との共催で実施されました。実際に河原さんの研究は日本学術会議の分科会「法と心理学」でも議論がされています。契約書や商品表示など、書かれていても私たちが認知心理学的に見落とすようにできてしまう書き方では公正な取引ができない可能性があります。身近な広告表示の研究は、私たちの生活の中にある様々な契約関係の仕組みを考える際にも活用されているそうです。

後半の質疑応答の時間には、年齢による認知システムの変化による影響や、講師が研究している魅力についての観点と本トピックとの関連についての質問が出ました。加齢による影響はさらに見落としを誘発したり、魅力的な情報は他の情報を打ち消してしまうといった議論が盛り上がりました。

 

 

最後に、本カフェをサポートいただいた日本学術会議会員の宇山智彦さん(スラブ・ユーラシア研究センター教授)から本カフェの挨拶がありました。宇山さんからは日本学術会議は理系だけでなく、文系会員も活動し、学問の垣根を超えた社会的議論が語られていることを紹介されました。

今回、三省堂カフェは新型コロナウイルス感染症対策を徹底し、厳しい人数制限を設けて開催しましたが、少人数ながらも濃厚な時間となりました。河原さん、ありがとうございました。


1)消費者庁(2018)打消し表示に関する実態調査報告書、消費者庁、URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_180921_0001.pdf
(参照日 2022/03/07)

2)Most, S. B., & Astur, R. S. (2007). Feature-based attentional set as a cause of traffic accidents. Visual Cognition, 15(2), 125–132. https://doi.org/10.1080/13506280600959316
(参照日 2022/03/07)