CoSTEPについて紹介する前に、少し私の身の上話にお付き合い頂きたい。
私は大学進学まで福島県に在住しており、小学生の時に東日本大震災と福島第一原発事故に被災した。復興と放射能汚染への不安、そして延々と流される専門家や政治家の「今すぐ人体への影響はない…」の一点張りの報道。少なくとも、当時、私の周囲の人たちは政治も科学も信じることができていなかったと記憶している。それから約10年、コロナ禍における政策と科学とのすれ違いやネットで氾濫する不信感をあらわにする言葉を日々目にし、私はデジャヴにも近い感覚を覚えていた。そんな矢先、私はCoSTEPと出会い、大学院への進学を機に受講した。
私の受講したライティング・編集実習は、文字通り記事執筆や編集をメインとした実習だ。1年間を通じて、書評・突撃インタビュー・SFプロトタイピング・研究者インタビューの4つに取り組み、これらの企画から取材、そして掲載までの執筆と編集を行った。正直、受講前までは「取材や執筆作業は自分だけの取り組みで、手伝ってくれるのは先生方くらいだろう」と思っていた。しかし、その実際は全く違う。一言でいえば、この実習は「チームプレイ」だった。私はこの1年で、北海道大学の公式ウェブマガジン「いいね!Hokudai」で3本、CoSTEPのホームページで2本の記事を掲載したが、その度に他の受講生に助けられた。
この実習では、企画や記事の内容について教員を含めた実習班全員で議論するピアレビューがある。時には、講義後や別日に実習班のチャット上で熱の入った議論が繰り広げられた。他人からの指摘や意見は、案外いつも自分では気づけない事ばかり。他者の視点も取り入れつつ自分の伝えたいことを考えて文章を書くのは、妙な緊張感と難しさがあった。こうしたやりとりを重ねて原稿が洗練されていき、掲載できたときの達成感と周囲への感謝は大きい。もし、私たちの記事を読んで下さった方がいれば、こうした議論と改善を日々重ねた、受講生の情熱と努力の産物であることを感じて頂けると大変嬉しい。
CoSTEPでの学びの場は実習だけではない。この講座では、様々なバックグラウンドの講師陣からの講義や色々な演習を通じた学びが展開された。特に講義は、科学技術コミュニケーションにおいて重要な学びが得られる貴重な機会だ。大学職員や研究者はもちろん、企業の代表やジャーナリスト、時には公害との関わりが深い方や北海道議会議員など、科学技術だけではなく、社会との関わり方や実践する上での考えを身につける機会となった。
こうして体験記を綴りながら振り返ると、本当に濃密な1年だったと気づく。情報の発信や受け取る視点は勿論、信頼される科学の在り方や今後の自分についてのヒントも得られたように思う。CoSTEPの学びを活かせる場は、科学技術コミュニケーションだけではない。目まぐるしく変化する社会で生きるあなたにとって、きっと大きな財産となるだろう。ここでは住む場所はもちろん、専門や立場、年齢だって全く関係ない。あなたがもし興味を抱いてくれたのなら、CoSTEPの戸を叩いてみてほしい。きっと、知らない世界や新たな学びが待っているはずだ。
長くなってしまったが、最後に、1年間を共にした受講生と講師の皆様、そしてこの体験記を最後まで読んでくださったあなたに、この場を借りて心から感謝したい。
大竹 駿佑(2021年度本科:ライティング・編集実習)
北海道大学 大学院 修士1年