2022年3 月18日(金)から21日(月・祝)までの4日間、アノオンシツで企画展示「山々と」を開催しました。木工作家の高野夕輝さん(web | instagram) が木の作品制作を、朴炫貞が企画/空間構成/映像を担当しました。
アノオンシツの裏にあった、札幌研究林と北海道大学キャンパスをつなぐアノハシが 2021 年に、老朽化で撤去されました。 その撤去工事のため伐採されたイチョウ、アカナラ、ハルニレ、イタヤカエデが木彫家の高野夕輝さん(web | instagram)の手によって、北海道の山をイメージした作品となりました。
アカナラの山
ハルニレの山
今回の展示ではアノオンシツの真ん中に、鏡の上に木で制作された山の作品を並べました。アノオンシツの特徴である天井のフレームや、オンシツの中にある植物、空や雲・雪などの空模様が映り込み、いつも移ろう山の姿のように、常に変化する空間を目指しました。
また、暗くなると木で制作された山の作品に、天塩研究林や苫小牧研究林で集めた朴の映像を映しました。映像が上映される作品の反対側にも、照明によって植物の影が映り込む設定にしました。
普段テーブルとして使う台に座るようにしつらえ、遠くて高い目線から見る山と、近くて低い目線から眺める山を両方楽しむことによって、山を見る多様な視点を気づくように設定しました。
本展示のタイトル「山々と(さんさんと」は、山(さん)を韓国でも산(さん)ということから始まりました。見ている山は違っても、その山を日本でも韓国でも同じ音で表すことが、韓国出身で日本で活動している朴にとってはささることがありました。また、山を二つ並べると「燦々と」や、「산산이(さんさんい)」という言葉に変化することから、山の中で集めた光(映像)を、木で制作した様々な山の作品に投影する企画を考えました。 そのことによって、アノオンシツに、木の中に見える山の顔をさんさんと降り注ぐ光と、それで揺らぐ木を想像できる場をみなさんの記憶にある山を思い出せる空間を目指しました。
さん [ 燦] サン・あきらか・きらめく 火の光が照りかがやいてあざやか。きらびやかで美しい。
산 [ さん] 韓国語で山を意味する。
산산이 [さんさんい] 韓国語の形容詞で、散々とぶつかって細かく割れる様
また、2月24日から始まった戦争にも影響を受け、それに対するメッセージを発したいことは、本展企画の裏テーマでした。山でみた風景には、競争はあっても暴力はなく、バウンダリーはあっても、国境はありませんでした。2022年、伝染病と戦争の時代に山からの木で制作した山に、山の風景を重ね合わせることで程よい線引き、心地よく流れる日常の大切さについて考えられればと思って、鏡も分かれ目が見えるようにしつらえ、オンシツのグリッドを構成する「線」が注目されるようにしています。また、映像はミサイルが発射され分離され始めると言われる60秒間しか続かず、ブラックがあって次のシーンに移るようになっていました。さらに展示会場には、韓国戦争を舞台に書かれた朴婉緒(パク・ギョンリ)さんの短編小説『あの山は、本当にそこにあったのだろうか』の一部を添えていました。
壺の横に立つ枯れた枝から、蕾が開こうとしたのを見た。
木蓮だった。
まだ固い外皮が柔らかく見えるほどの変化だったが、
この木が春の気配を感じた途端どれほど限りなく膨らむかを知っていた。
そのいかれた開花を見なくても見たような気がして
あら、おかしいんじゃない、という声が漏れた。
しかし、実は木を擬人化したのではなく、私が木になったことであった。
私が木になって、長い長い冬眠から目覚めながら見つめた、
とても惨めな、人間が犯したいかれたことに対する驚愕の声であった。
『あの山は、本当にそこにあったのだろうか』朴婉緒著、韓国語版を朴炫貞が訳す
淡々と続いている山々、その中で生きる木々、そしてそこに燦々と降り注ぐ光。アノオンシツの展示「山々と」を通して、程よい線引きのやり方を考えられる場になれればと思います。
記録映像も、近日中に公開します。