CoSTEPでは、8月6日に阿部竜さん(北海道大学触媒化学研究センター 准教授)をゲストに迎えて第58回サイエンス・カフェ札幌を開催します。このレポートではカフェに先駆けて、5月28日にひらかれた阿部さんとのミーティングや準備の様子を紹介します。
レポート:樋渡堅太(本科・北海道大学生命科学院修士1年)
今回のミーティングは阿部さんと企画メンバー(カフェ実習1班)との初顔合わせ。最初に全員で自己紹介をしました。阿部さんにもカフェの企画メンバーとして一緒に参加してほしいという気持ちを伝えて、「阿部先生」ではなくて「阿部さん」と“さん付け”で呼びあいましょう、と一つのルールをつくると一気に打ち解けて話を進めることができました。
阿部さんは触媒を用いて水を分解し、水素を作る研究をしています。最初になぜ水から水素を作るのか解説してもらいました。水素は燃焼させても、地球温暖化を引きおこすとされているCO2を発生させずに水に戻るだけなので、クリーンエネルギーとして注目されています。しかし、いま生産されている水素の9割以上は石油や天然ガスなどの化石燃料から作られています。つまり、限りのある化石燃料を利用しているのでエネルギー問題の解決にはつながっていません。
そこで、枯渇の心配がない水を、太陽のエネルギーを使って水素と酸素に分解し、水素を作り出す方法が考えられました。これがうまくいくと、二酸化炭素を発生させない再利用可能なクリーンエネルギーが実現します。このように阿部さんは、太陽のエネルギーを使って水から水素をつくりだすことに触媒を利用する研究に取り組んでいます。
阿部さんは光触媒という光をあてると触媒として働く物質に注目して研究をしています。阿部さんが取り組んでいる光触媒のしくみや一般的な光触媒との違い、水素エネルギーの利点などたくさんの質問をしてみました。その中からいくつかの話題をピックアップして紹介します。
Q:同じ太陽光を利用する太陽光発電と比較して利点は何ですか?
A:コストが安いことと、水素は蓄えることができるので日射量に左右されずに電気需要の変化に対応できることです。
Q:水素の活用方法を教えて下さい。
A:CO2と組み合わせることでプラスチックなどの材料になります。燃やせば燃料になるし、他の物質と反応させて液体燃料にすればさらに使い勝手が良くなり、安全性も向上します。
Q:同時に発生する酸素はどうなるのですか?
A:基本的には外に放出します。酸素は既に多く存在するので、水から酸素を作る時の反応エネルギーを利用して、有用なものを合成する研究もしています。
阿部さんは「かつて日本の光触媒技術は世界最先端を走っていました。しかしアメリカやヨーロッパが国家プロジェクトとして巨額の予算を投じて研究を進めています。今こそ、世界一のプライドを取り戻し、水素エネルギーを日本発の技術にするために、この研究を日本で完成させたい」と熱く語ってくださいました。
カフェの準備も本格的になっています。いまはタイトルを決めるために議論の真っ最中。阿部さんから聞いた昔のエピソードをとり入れたり、研究のキーワードをちりばめたり、面白いタイトル候補が出揃ってきています。選考担当の坂口さんは大忙し。
夢のある研究内容につい興味ばかり膨らんでしまいますが、これから実施にむけて具体的で細かい作業が始まります。チラシの制作は三ツ村さんと研修科の上口さん、広報は松隈さんが担当します。当日進行役をつとめる小菅さんは今からちょっと緊張ぎみです。市民のみなさんに楽しんでいただけるよう、ディレクターの廣島さんのもとで協力して進めていきたいと思います。