大内田先生のインタビュー記事の後編になります!
前編では、物理学・人類学など様々な分野に興味関心をもつ大内田さんから、サイエンスイラストレーターとして活動する原動力について伺いました。後編では、大内田先生のサイエンスイラストレーションに対する考えや姿勢を中心に伺いました。もし前編を読まれていない方は、先に前編をお読みしてから本記事を読まれることをおすすめします!
※本文ではインタビュー時の話し方をもとに「大内田先生」と表記しています。
大内田美沙紀(おおうちだ・みさき)
広島大学-広島大学大学院理学研究科物理科学専攻 (博士:理学)。その後、アメリカに渡りワシントン大学で人類学の修士号を取得。そのときにサイエンスイラストレーターという職業を知り、各地でインターンをしながら修行を重ねる。2016年、京都大学iPS細胞研究所の広報担当として勤務。本年7月北海道大学高等推進教育機構オープンエデュケーションセンター科学技術コミュニケーション教育研究(CoSTEP)部門に入職。
—7月にCoSTEP特任助教として着任されましたが、現時点でCoSTEPなどで具体的に取り組まれていることについて教えてください。
主に教務や、北大の定例記者会見の内容を記事にするライティングの仕事をしています。記事の内容は「いいね!Hokudai」で一般の方々に向けて発信しています。前にいた京大iPS細胞研究所でもライティングの仕事をしていたのですが、メディア向けの記事を書いていた時と比べると今の北大で書いている記事は少し毛色が違いますね。
—メディア向けの記事と一般の方々に向けての記事はどのように違うのでしょうか?
メディア向けの記事は論文や研究の内容をまとめるのに対して、一般向けの記事は、さらに内容を噛み砕いて記事にする必要があるんです。個人的には、専門用語をあまり使わないで文章にする後者の方が難しいと感じています。
—CoSTEPでは改めてサイエンスイラストレーターの位置付けを行いたいとのことですが、大内田先生はどのようにお考えなのですか?
CoSTEPに着任して北大の研究者の方々に挨拶に行った時に、研究者の方々からら「最近論文提出の際にグラフィカルアブストラクト(論文の内容をイラストに簡潔にまとめること)を求められることが多い」という声を聞きました。
—以前、大内田先生はサイエンスイラストレーションを通じて「テキストでは説明しきれない部分、科学の概念や本質を気づかせる」とおっしゃっていましたが、具体的にどのようにして相手の理解度が上がるのですか?
イラストを加えることで、読み手の頭の中に座標軸を与えられるんですよね。テキストだけだと難解な論文の内容でも、イラストがあることでイメージがわき、読み手の理解の手助けに繋がると考えています。
例えば、iPS細胞関連の研究のイラストを描いたときがありまして、タンパク質の構造の変化をイラストにしたとき、「タンパク質の構造は立体的に変わるんだ」という反応を頂きました。
—大内田先生が今までに手がけたお仕事で、何が一番印象に残りましたか?
Cell (Volume 174, Issue 3, p499-770)というジャーナルのカバーアートです。この時にカバーアートと呼ばれるジャンルのお仕事を初めて受けました。それまでは正確に描くことを重視していたんですが、過去のイラストについて調べていく中で「論文の内容を抽象的に表して良いんだ!」と衝撃を受けたのをよく覚えていますね。そうした中で、表紙に全ての意味をに込めようと思って、出来上がったのがこの表紙です。
—人が花びらと戯れている…擬人化ですか?
はい。この表紙は巨核球という細胞が乱流という物理的な刺激を受けてようやくたくさんの血小板を出すことを擬人化して表しているんです。巨核球を人に見立てていて、乱流を緑の渦で表していて、ゴッホの作品のオマージュを意識しました。そしてこの花びらは巨核球から血小板が出ているところで、全部の意味をイラストに込めているんです。
—なるほど、このカバーイラストの後から大内田さんのサイエンスイラストレーションに対する姿勢も変わったのですね。
そうなんです。イラストに意味を入れることが面白くて、これでまた私のイラストのスタイルの幅が広がりました。
—今後サイエンスイラストレーターとして、科学と社会をつなげる時に、関わっていく、繋がっていこうと考えておられますか?
イラストにはサイエンスに興味がない人でも惹かれる力があると思っていまして。サイエンスを始めるときのきっかけというか、引力になればいいかなと思っています。少しでも多くの人にサイエンスについて知ってもらいたいじゃないですか。
そういう時に、イラストを通じて難しいサイエンスの内容でも、まずは気軽に触れてみるようにサポートするのが役割だと考えています。
CoSTEPでもサイエンスコミュニケーションをもう一度見直して、自分でも教えつつ学びたいと思いますし、サイエンスコミュニケーションについてももっと向き合っていきたいと考えています。
—貴重なお時間を頂きありがとうございました!
【取材を終えて】
「サイエンスを少しでも多くの人たちに知ってもらうこと」という信念が、大内田先生がサイエンスイラストレーターの活動を続けられている原動力なのだと取材を通して実感しました。
大内田先生は読み手の層によってイラストの手法を使い分けており、「何を対象とするのか」「伝えたいメッセージは何か」を意識して描かれていることも、プロのサイエンスイラストレーターとしての姿勢が強く伺えました。
今後、科学技術がより社会の中で身近になってくる時代になることでしょう。そのような中で、サイエンスイラストレーターは少しでも多くの人たちに「サイエンスって面白い!」と興味をもってもらうために重要な役割を担っていくことでしょう。
(CoSTEP18期 本科ライティング・編集実習 小辻龍郎・増田理乃)