実践+発信

モジュール2-4「映像メディア科学技術コミュニケーション」(7/23)早岡英介先生 講義レポート

2022.12.24

須藤哲平(2022年度選科A/社会人)

CoSTEPの客員教授でもある早岡先生

科学技術コミュニケーターとして代表的なものの一つに科学ジャーナリスト(記者)があります。(科学ジャーナリストについては隈本邦彦先生によるモジュール1-3の講義を参照)
今回の講義では映像ディレクターとして、テレビ番組の制作に携わってこられた早岡英介先生をお招きし、科学ジャーナリストとは違う映像ディレクターや映像メディアの観点から科学技術コミュニケーションを扱う回です。早岡先生によれば記者と映像ディレクターは次のように違うと言います。
「記者は事実を正確に伝えることを仕事としています。つまり、脚色されることを拒み、主観を排除したある意味、無機質な性質を持っています。一方で、テレビ番組に代表される映像ディレクターはドラマチックに脚色して伝え、受け手の関心をいかに引くかということにも重点を置きます」

映像ディレクターと記者の違いについて話す早岡先生
1. ビジュアルイメージの特性

早岡先生によれば、メディアは、“情報を圧縮する仕事”であるといいます。以下の例をみてみましょう。左は論文の見出しです。それぞれの見出しは各章立ての要約的な役割があり、正確に内容を捉え、説明的に伝えています。一方で、仰々しく、無機質で興味をそそられにくいかもしれません。これに対し、早岡先生が映像ディレクター的に脚色したのが、右の見出しになります。感嘆的な表現「ついに来た!」やあおるような言い回し「巨大津波に備えよ!」、期待を抱かせる表現「これだけは最後に言わせて…」が多用されています。早岡先生はこれを“悪用”と皮肉をこめておっしゃられていましたが、もともとの関心にかかわらず、より多くの人の興味を引くことができるのは、後者の表現といえるでしょう。

論文の見出しを例としたアピール力の違い

 

ビジュアルイメージは1枚の写真であったとしても多くの情報を内包しています。下の写真は、親子が釣りを楽しむ様子です。夕焼け空は、時間の経過を演出し、お子さんの立ち振る舞いからは喜びが伝わってきます。竿のしなりはその感情を際立たせる演出に一役買っています。このように優れたビジュアルイメージは見る人に物語を感じさせてくれます。

多くの情報を含む写真の事例

また、構図の効果によって写真や映像をより魅力的に見せることができます。例えば、シンメトリーや安定感のあるものは見る人に安心感を与える構図です。繰り返しのパターンは機械的な美しさを演出し、奥行きのある背景は、開放的な印象を与えます。このように画面の中にモチーフをどう配置するか、背景との関係性をどう持たせるかということで、魅力的に見せることができます。

2. 映像は興味関心へのきっかけ

上記のような特性を持つビジュアルイメージの役割は科学や技術に関心の薄い一般の人々に届けることです。興味関心のきっかけをつくるためには、まずは見てもらえるような工夫が必要です。例えば、映像の冒頭は魅力的でダイナミックなイメージから入り、そこでメッセージを強調するようにしてひきつけるように見せ、視聴者の心をつかみます。物語性を持たせることで、伝わりやすくなり、視聴者の感情にも作用します。伝えたいメッセージは何なのかを意識し、然るべきタイミングで、印象的に見せることが重要になります。
さらに、映像の本質は単に“情報の伝達”ではなく“コミュニケーション”であると早岡先生はまとめます。例えば、テレビで見られるシーンでは、天気の話題一つとっても、そこに登場する人々が交わす「暑いですね」といった何気ない会話に感情を共有する効果があります。

3. これからの映像メディアと科学技術コミュニケーション

テレビは現代でも主要メディアですが、近年ではインターネットメディアも重要な位置を占めるようになりました。国民全体でみるとテレビを利用する割合は8割近く、インターネットは5割を下回ります。しかし、年代別にみると30代を境に逆転し、若年層ほどテレビの利用率よりもインターネットの利用率が高くなっています。

メディア環境の変化についての調査

さらに、動画共有サイトやSNSが普及し、企業だけでなく個人も自身で動画チャンネルを持つことが簡単になりました。また、解像度の高いカメラ、空撮用のドローンも比較的リーズナブルな価格で入手できるようになりました。こうした発表の場や制作機材の低価格化を背景として多くの消費者が手軽に撮影と投稿を行うようになり、いわゆるYouTuberと呼ばれる人たちの台頭もおこってきたことで、プロとアマチュアとの境界が曖昧になりつつあります。
これからの映像メディアとして講義の中で紹介された動画は、研究者グループによってLIVE配信された映像でした。ドローンによる空撮やポップな字幕はさながらテレビ番組としても遜色ないクオリティでした。
映像メディアの役割として、コミュニケーションのきっかけという点も重要です。例えば、上映会のように、映像を視聴する行為を共有することで、コミュニケーションを創出します。
さらに今後は、プロジェクションマッピングやVR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった新しい技術により映像コンテンツの可能性は広がります。こうした技術を活用し、より体験的な映像コンテンツを作り出していきたいと早岡先生は言います。

4. 最後に

YouTubeやSNSの普及により、映像コンテンツは一般的な媒体といえます。科学技術コミュニケーターとして、トピックを世の中に広めるためには重視したい媒体でもあります。誰でもチャンネルを持ち、発信できるようになりました。このことは、科学者や科学技術コミュニケーターが直接プロジェクトを企画し、撮影編集して発信することまで一貫して可能であると言えます。今回の講義で扱われた映像コンテンツは、これからの市民に向けた科学技術コミュニケーションを実践していくうえで重要な内容でした。
映像はビジュアルイメージの持つインパクトや物語性を駆使しして魅力的に伝えることができます。また、通信技術の発展やVR技術などの技術の発展により、双方向性や体験を持たせることもできるようになりました。一方で、影響力が大きいからこそ、単純化や脚色によって事実が歪められてしまわないように気を付ける必要があります。このバランス感覚こそが、科学技術コミュニケーターに求められる能力なのかもしれません。

授業終了後に早岡先生と記念撮影