実践+発信

「研究者のアウトリーチ活動」1214/信濃卓郎先生の講義レポート

2012.1.12

アウトリーチ活動は誰のために行うものなのでしょうか。参加者のためだけでしょうか。

今回は、北海道農業研究センター 生産環境研究領域 上席研究員の信濃卓郎先生に、10年間にわたる活動の経験から得た、研究者自身が行うアウトリーチ活動の成果や意義についてお話していただきました。

  きっかけは幼稚園の「おやじクラブ」

発端は、幼稚園のおやじクラブで企画した紙芝居でした。田植え体験の前に稲の一生を紙芝居で説明、するとその後実物を見た子供たちは目をきらきらさせて喜んでいました。この体験で信濃さんは人に知識を伝えることの楽しさを知ったのです。

研究の中でアウトリーチ活動の必要性を感じた瞬間

中国山林の農村で農作物の生産性を上げるプロジェクトに取り組んでいた信濃さんの研究グループは、研究と現場の意識の違いを知ることになりました。そのとき研究グループは、村が自立するために収益率の高い作物を栽培するための技術などを伝えようと考えていましたが、最終的に実施されたのは電気と道路を整備することでした。しかしその結果起こったのは、利便性が高まった村からの村民の流出。村の生活が大きく変わってしまいました。

さらに、大学の講義で環境生体系への農業の影響、農薬、環境ホルモン、肥料、持続性という問題点を教える中で、「自分たち農学研究者は20世紀に何をやってきたのか」「研究室で行ったことは役に立つことではあるが、もっとやらなきゃいけないことがあったのではないのか」と考えたのです。

この2つのできごとから信濃さんは農学研究者としての焦りを感じ、研究の重要性が全く伝わっていないことに気がついたといいます。

アウトリーチ活動に取り組む

研究活動を続ける中で問題点を考えてきた信濃さんは、2005年からさまざまな手法でアウトリーチ活動に取り組み始めました。まず2005年から3年間参加したアグリビジネスフェアでは、場所や手法を工夫し、札幌駅構内、そのほか市民が集まりやすい場所探したり、発表にしかたもポスターを使うほか、パソコンを持ち込んでのプレゼンテーション、顕微鏡で実際に物を見てもらうなどさまざまな方法を試しました。

その後「ペンギンカフェ」というサイエンスカフェに参加した信濃さんは、少人数の人を相手にきちんと理解してもらうことができる手法としてサイエンスカフェという手法に出会ったのです。そこで挑戦したサイエンスカフェ「北大de Night Café」では、市民が高い関心を持っていることに気づき、ほんの少しではあったが伝えたいことを正確に伝えることができたと感じました。

サイエンスカフェは一人ではできない

サイエンスカフェに挑戦する中で、信濃さんは以下の3つのことに気がつきました。

?軽い気持ちで行っては、自己満足の講演会になるだけ。

?準備も含め、一人ではできない。スタッフ全員の理解と協力が必要。

?準備不足は致命的な失敗につながる。

信濃さんは現在、北海道農業研究センター(北農研)で研究、そして北農研サイエンスカフェを企画し行っています。

 ■まとめ

アウトリーチ活動を行うことは、研究者自身が自分の研究を見直し、研究のあり方について整理するきっかけとなることがわかりました。そしてそれが、信濃さんの場合、人生をも変えました。また、サポートする人の重要性についても大きく取り上げられていて、科学技術コミュニケーターの必要性も強く感じることができたと思います。

信濃先生ありがとうございました。

(レポート:本科 中西浩崇 )