2023年12月17日、2023年度美術館・科学館選択実習を開催しました。前半は東京の日本科学未来館を、後半は森美術館で、異なる性格の展示を一緒に鑑賞し、特徴を理解し合う学びの場を目指す実習です。全国から集まった本科、選科A、選科Cの受講生20名と、教員として朴、宮本、寺田、福浦、森美術館の鑑賞では修了生の仲居さん、室井さんが参加しました。
2023年11月にリニューアルされた日本科学未来館へ
まずは日本科学未来館(以下未来館)では、未来館のご協力で、科学コミュニケーター(以下SC)の大澤さん、加藤さんからの全体説明を受けて、それぞれ展示を体験する時間にしました。今回の報告では、選択実習に参加した受講生からのコメントから抜粋して内容を説明していきます。
“未来館では対話ロボットや謎解き、ICT、体験ゲームなどを使い、受け身ではなく能動的な体験を促す展示を行っていると感じた。”
展示「プラネタリー・クライシス これからもこの地球でくらすために」
“積極的に対話のきっかけを生み出そうとしている仕組みが印象に残った。”
“問いかけを置きタブレットに記入してもらうことで考えさせ,同時にいろいろな人の考えを見ることが出来るしくみづくりがされていた。”
“体験し、手を動かしたことは記憶にも残りやすいが、そこから先をどう展開するかが課題だと感じた。”
展示「ナナイロクエスト―ロボットと生きる未来のものがたり」参加中の受講生
“ナナイロクエストや老いパークなど、没入感を非常に意識したものが多かった。”
“特に、3階の体験型展示「ナナイロクエスト」では、近い将来に起こり得る事象を通じて、人とロボットが共存する未来の日常への期待と不安を感じられた。ロボットの研究に携わる身としても、大変興味深かった。”
“1つの展示の所要時間が60~80分って、何事!?と思った。強制的に終わるまで体験させられる展示っていうのは手間がかかりそうな反面、伝えたいメッセージをしっかりと見学者に伝えられていい。”
展示「老いパーク」
“老いの展示は体の各部位の仕組みを学びながらで楽しさと発見の双方を体験できた。さらに、自分ごとに置き換えられることで、今の私にできることはなんだろうと自身の生活を見直すきっかけにもなった。”
“「老い」というセンシティブに思うテーマをあえてポップなイメージで展示することで、生きていれば全員に訪れる老いをより身近に感じさせているように感じた。 ”
“高齢者に対する共感や配慮を引き出そうとする展示意図は否定しないものの、33歳の自分にとっては押し付けがましさも感じた。若者に高齢者に対して配慮させるだけでなく、これからの社会で高齢者が何をできるのかという視点や、社会が高齢化する中で科学技術に何ができるのかという未来志向の展示をしてほしかった。”
展示「計算機と自然、計算機の自然」
“館内の至る所に点字があったり、展示位置が低く斜めになっているものあったりと、多様性を意識していることが感じられた。”
“テクノロジーだけでなく環境や社会とのつながりをうまく包んでいること。”
“未来館のバックヤードには、ロボットやバイオテクノロジーなどの研究室が入居しており、実証研究に来場者が被験者として参加するなど、来場者と研究室の交流の場としての働きも体感することができた。”
“世間一般で評価されている子ども向けコンテンツは「大人が見ても楽しめる」といわれている印象ですが、サイエンスで大きな話をする場合には一筋縄ではいかないのだろうか?と感じた。”
“企画をする上で対話ではなく、一方的な情報伝達にならないように検証会を開くことで、老若男女に一度体験してもらい意見を取り入れるというお話を聞いた。”
“SCとの対話から、また行こうという意欲につながっている。”
森美術館「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」
続いて、森美術館に移動し、展示「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」を鑑賞しました。「環境危機に現代アートはどう向き合うのか?」と取りかけるこの展示を、4グループに別れて対話型鑑賞法を用いて体験しました。
科学館と美術館は、展示の目的も手法も異なるため、比較することからよりはっきり特徴が見えてきます。また、キャプションや説明などの情報を用いて、自分の考えを軸にグループで対話しながら鑑賞していくことによって、作品についての多様な見方や、自分についての発見につながります。このパートも、受講生からのコメントを抜粋した文章で、内容と感想をお伝えします。
“これまで美術館は先入観で非常に苦手意識があり、自ら近付かないようにしていたのでどのような展示があるのかということもほとんど知らなかったが、見るだけでなく、貝殻を踏むように触って感じさせる展示もあることに驚いた。”
“今回の様々な手法を用いた展示をグループで話し合いながら体験できたことで絵や映像だけではなくその場所を形成している全てが一つの作品なのだと感じた。それら一つ一つにどのような意味があるのだろうと考えることは難しいことではあるが、美術館の楽しみ方が一つ増えたように感じた。”
“どの作品においても、色、配置、場所、時代背景、タイトルなどあらゆる側面において理由を探すことが、想像の部分もあるが作者のメッセージを感じることができて非常に濃い時間となった。”
“「手法がメッセージとなることもある」というのが最も印象的であった。”
“作品外の環境や鑑賞者に行動変容を起こさせることまで含めて作品であるという現代アートの性質がよく現れていると感じる。”
“気になる作品もそれぞれ違い、気になった理由も着眼点も違う。何が気になるかは自分の知識や経験、関心分野と密接に関係している。”
“美術館の展示順やチャプター分けは、「このような視点で鑑賞してみては?」というサジェスチョンとなっており、鑑賞者に対する適切な手助けになっていた。”
“「公害をアートで伝える」って、言葉だけで言うと私はなんとなく抵抗感を持っていた。でも実際に見てみたら、こういう表現もありだなと思えるようになった。”
“アートって全然よくわからないし、人に伝えるべきことも分からなくて。でも本当に些細なこととか、なんでもいいんだなあって思えてからは気軽に意見を交わし合えて、なんだか楽しかった。他の人とも見ている場所が全然違って、自分の視野の狭さに驚かされた。”
“ちょっと立ち止まって、その背景を考えさせるものが多かった。”
“先入観なく見たままを感じたり、解説を読んでから考えたり、どちらもやってみることで各作品や制作に至る背景を深く知ることができ、新たな気付きを得ることができた。”
“様々な作者の多様な価値観を知るとともに、自分自身の価値観、考え方に気付かされる時間となった。”
“あとで家に帰ってから「あそこもっと細かく見ておけば」という後悔が今回はほとんどなく、言語化を通して満足の行くまでの鑑賞ができたのではないかと思った。”
“同じものを違う視点で見ることの重要性を再認識した。”
“訪問者が壊すことで完成するものや、太陽光を利用したものなど、二度と同じ状態にならない作品が展示されていたことも、強く印象に残っている。”
“絵の正しい解釈や作者が感じて欲しい感想を持たなくて良いと分かり肩の荷が下りた感じがしました.もっと気軽に美術館に行っていいんだと思った”
“鑑賞してみれば好き嫌いや印象に残る作品はあった。そういったものは自分の興味や関心のある領域を反映させている気がして、無意識に向き合うことになった。”
“前回の特別展の建材をそのまま使う、という美術館側のエコロジーへの取り組みを見て、美術館自体が何かを訴えることができることに気が付いた。”
“壁がサステナブルを意識したのか、塗装がされないままであったことは本展示会の意図に整合しており、好印象かつ意外であった。”
“まなざしの違いをひしひしと感じた!”
“アートコミュニケーションとサイエンスコミュニケーションの「あわい」を考えるきっかけになった。”
“他の方の意見を、その場で学び、気づきを得ながら作品を鑑賞できる点が、1人での鑑賞との大きな違いだと感じた。”
“自分とまったく違う視点を教えてもらえてとてもおもしろかった。特に、ふだんアートを見慣れていない人の意見が面白かった。”
“「自分はどの作品について、対話をしたいのか」という新たな視点も持つことができ、自分の「好き」・「嫌い」についても明確に認識できた。”
1日の密度の高い実習でしたが、その分感じられたことも多いようです。特に、展示に対してポジティブな意見と同時に改善案が見えていたこと、未来館と森美で共通する環境問題に対する異なる手法を提示したこと、わかりやすいと感じた人もいれば、難しいと感じた人もいるなど、多様な意見が見えていたことも、この実習ならではの様子だったと思います。
社会の中で科学がどのように活用されていく(いる)か、どのようなものが求められているか、その中で自分はどの立ち位置から物事を見ているか、どのようなコミュニケーションの場を求めているかなど、今回の実習から更なる問いかけにつながることを期待します。
ご協力いただいた未来館の皆さん、参加した皆さん、ありがとうございました!