7月4日、東海大学国際文化学部デザイン文化学科客員教授の渡辺保史先生に「情報デザインー対話と共創の技術の可能性」というタイトルで講義をしていただきました。渡辺先生が関わったインターネット1996ワールドエキスポジションでのSensoriumやハコダテスミカプロジェクトといった試みをはじめ、IDEOのデザインやニコニコ超会議など様々な例を挙げながら情報デザインの持つ可能性についてお話しいただきました。
「情報デザイン」という、その対象物が漠然としているものを(1)what(対象、目的) 、(2)how(手法、過程) 、(3)why (社会的意義、価値)という3つの切り口から探っていくことが今回のテーマです。
1.what(対象、目的)
狭義の「情報デザイン」として、標識や情報の画像的処理、ウェブデザインが挙げられます。しかし、情報デザインはこういった物だけではなく、情報に関わるコンテンツ、プロダクト全体のことを表します。見た目のデザインだけではなく、その背景にある文脈、体験をもその範囲に含むのです。そこには従来「編集」と呼ばれてきた領域も入ってきます。
グリーンマップというプロジェクトの例では、地図上に情報を記入することで場所同士の見えない関係性を可視化することができます。また、セカイカメラやグーグルグラスに見られる拡張現実は、バーチャル空間で起きていることを感覚的に感じることができ、デジタル空間と経験の複合的なリアリティを実感するための情報デザインです。
情報デザインは経験をデザインすることでもあります。送り手と受け手の間で生成される情報が理解され、共有され、知恵へと昇華していくための仕組みの設計です。そして、この社会技術としての情報デザインがうまく機能するためには、その仕組みが生活技術としての情報デザインに根ざしていく必要があるのです。
2.how(手法、過程)
では、生活技術としての情報デザインに根ざすとはどういうことでしょうか? この点を考える上で、情報に限らずデザイナーがいかにデザインをするのかを分析することが有効です。その例として、IDEOのデザインが挙げられます。彼らはまず実際に物が使われている場に行って観察、調査をし(リアリティと出会う)、その後デザイン上の課題を出し合います。本当にデザインするべき物、解決すべき課題に照準を絞るのです。その後有り合わせのもので試作し、それから実際に作るもののデザインに入ります。従来、この最後の部分だけがデザインだと思われていましたが、そこに至るまでの過程の方がむしろ重要なのです。
このような手法を情報デザインに応用した例が、ハコダテスミカプロジェクトで用いられたシナリオメイキングワークショップという手法です。主人公を設定し、彼/彼女が経験することや、デザインされた物をどのように使うかを考えて行きます。
3.why(社会的意義、価値)
実際に情報デザインはどのようなところに役立つのでしょうか?
その一例として、Philips社の、地域情報が映し出されるカフェテーブルの例が挙げられました。実際に町の人々のコミュニケーションを観察した結果、その仕組みを拡張することを意図した情報デザインです。コミュニティへの帰属意識、シビックプライドのためのこういったデザインは、情報デザインの社会的意義の重要な要素です。目に見えない人々の意識や行動をデザインし、「自分事」と「他人事」の間の「自分たち事」を作ること、それに気づく仕組みづくりは、情報の受け手として没人格化された近代以降の人間を社会化することです。
情報デザインは単に情報をわかりやすく加工するというものではなく、社会のOSを書き換えて様々な問題に対応できるようにすることでもあります。情報、経験、コミュニティ、社会はそれぞれ関連していて、情報をデザインすることはこれらすべてをデザインすることなのです。
今回の講義で、いままで受けてきたモジュールの内容が段々とつながってきました。例えば、自分事と他人事の間に「自分たち事」を作る、というようなことは、その実装段階の技術でパブリックスピーキングの講義内容と深く関わっています。科学技術コミュニケーションだけでなく、自らの研究と社会のつながりを考える上でも大変有意義な講義でした。
菊地乃依瑠(2012年度CoSTEP選科生)