実践+発信

2023年度CoSTEP修了記念シンポジウム「たったいくつものかたり歴史コミュニケーション視点から〜」を開催しました

2024.6.4

2024年3月9日、CoSTEP19期が無事に修了しました。
これを記念し、シンポジウム「たったいくつものかたり 〜歴史コミュニケーションの視点から〜」を開催しました。

以下のリンクにてこの模様を動画で公開しておりますので、ご興味ある方はぜひご視聴ください。

本シンポジウムでは、ゲストとして、池尻良平さん、伊藤賀一さん、岡田真弓さんをお招きして、歴史コミュニケーションの実践事例をお聞きし、科学コミュニケーションにも繋がる方法論を探りました。
今年度のCoSTEP受講生と一般参加者、合わせて50名が来場しました。

 

はじめに、CoSTEPの川本思心部門長から、開会の挨拶がありました。

CoSTEPの簡単な紹介が行われ、今回のシンポジウムが、CoSTEPの受講生がこれからまた新たな観点で科学技術コミュニケーションに取り組んでもらえるように、そして一般公開をして、学術をどうやって社会と一緒に作っていくのかといった問題に関心のある方に来てもらい、科学技術コミュニケーションに興味を持ってもらおうと企画されたものであることが語られました。

 

次に、本シンポジウムの聞き手を務めるCoSTEP特任助教の宮本道人から、企画趣旨について説明が行われました。

史実は、真偽が確定しにくい難しいもので、過去の過ちを繰り返さないためのヒントにもなるけれど、分断の原因にもなるような、複雑な存在です。
シンポジウムタイトル「たったいくつものかたり」には、一人ひとりの語りはものすごく大切なのだけれど、複数になると、その大切さがよく分からなくなってしまったり、いくつかの言葉がぶつかって難しい扱いになったりするからこそ、「たったひとつ」ではなく「たったいくつもの」かたりを大事にすべきという考えが込められています。

 

また、本シンポジウムのチラシやポスターのデザインを、SUEKKOLIONS©というグループが担当したことが語られました。

チラシやポスターに写っている立体物は、SUEKKOLIONS©さんが実際にアクリルを用いて作成したもので、本シンポジウムの壇上中央にも同じものが飾られています。
歴史は複雑で重層的であるという趣旨をふまえ、立体でのデザインを提案されたことが明かされました。

 

1人目の登壇者は、東京大学大学院 情報学環 客員准教授の池尻良平さんです。
池尻さんは歴史のゲーム教材やデジタル教材を開発しつつ、高校で実践・評価していらっしゃる研究者です。

池尻さんからは、「歴史のコミュニケーションとデザイン」というタイトルで、3つの話題提供がなされました。
1つ目は、歴史資料との対話によって行動や思考を変えるという事例です。
池尻さんの作ったデジタルゲーム「レキシーカー」は、歴史資料の解釈をめぐって、プレイヤーが楽しくさまざまな角度から検討できるような設計がなされています。
2つ目は過去を現在に応用する思考を生み出す事例です。歴史上の人物と現代人がコミュニケーションをして、相手に批判してもらいながら、歴史をうまく応用して政策を考えるというアナログゲームを作った事例が紹介されました。
3つ目は「歴史タイムマシーン」というWebアプリの作成事例です。
ニュースやそのカテゴリ、検索したい時期を選んで検索すると、関連する歴史、例えば産業革命期の世界市場の情報が出てきて、当時の歴史と紐付けて現代を考えられるようになるアプリを作成し、それを元に議論を進めると言った話が紹介されました。

 

2人目の登壇者は、スタディサプリ 社会科講師の伊藤賀一さんです。
伊藤さんはオンライン動画のプロ講師として大変人気であると同時に、歴史を紹介する本を中心に70冊を超えるご著書を執筆されていらっしゃいます。

そんな伊藤さんからは「一学士からの話題提供」と題して、ご自身の進んできたキャリアを中心にお話をいただきました。
伊藤さんは大学卒業と同時に東進ハイスクールの講師になったのですが、30歳ですべての仕事を辞めたそうです。
その理由はとても興味深いものでした。
伊藤さんの授業は全国に映像で届いているので、生徒さんもいろいろな地域に住んでいて、親御さんもいろいろな職業についていて、バックグラウンドが多様である。
しかし、伊藤さん自身は教育業界しか経験がない。「何も分からないのに偉そうに授業しているのは、おかしいんちゃうかな」と思って仕事を辞めて、全国各地で住み込みで第一次産業から第三次産業まで、農業・自動車工場・宿泊業など、3年半ほど様々な職業を経験したそうです。
その後予備校に復帰をして人気講師になっていくのですが、43歳で早稲田大学の教育学部に入学して生涯教育学を学んだり、プロレスのリングアナウンサーやラジオのパーソナリティーを務めたり、幅広くお仕事をされていきます。
そのポイントとして「可能性を広げるときに、1マス横のことしか絶対やらない」といったことを語っていらっしゃいました。

 

3人目の登壇者は北海道大学 アイヌ共生推進本部/国際広報メディア・観光学院 准教授の岡田真弓さんです。
岡田さんはパブリック考古学と文化遺産研究(
ヘリテージ・スタディーズ)を専門にされている研究者です。

岡田さんからは「ヘリテージと歴史コミュニケーション」と題して様々な事例が紹介されました。まず、パブリック考古学と、ヘリテージ・スタディーズについて解説がありました。
パブリック考古学とは、考古学が現代社会、あるいは歴史のある時点で、どういうふうに考えられ、活用されていたのかを考察したり、考古学と人々との間にある課題を実践を通して解決するといったことを考える分野です。
例えばパブリック考古学の手法のひとつである教育的アプローチには、出土物について博物館の来館者に説明をしたり、遺跡で現場説明会を行うといったことが含まれます。
ヘリテージ・スタディーズは、ヘリテージ(遺産)と人々の相互関係を考察する分野です。
岡田さんは大学で考古学を学ぶゼミに入って、初めてイスラエルにある遺跡に発掘に行ったとき、「いわゆる考古学者(専門家)だけが行う歴史構築以外の、非考古学者から遺跡に投影される眼差しというものがある、そして、その熱量がここではものすごく強い」ということに衝撃を受けて、この分野の研究に関心を持っていったそうです。
岡田さんからは、国立アイヌ民族博物館が2023年に行った、アイヌの視点から約3万年前の旧石器から19世紀に至るまでの北海道、樺太、千島、東北北部のエリアの歴史を復元することを目的とした企画展「考古学と歴史学からみるアイヌ史展 ― 19世紀までの軌跡 ―」や、アメリカの国立公園で実施されているアメリカの歴史とヘリテージを作り上げてきた様々な人々の物語にアクセスするTelling All Americans’ Storiesプログラムが紹介され、「矜持と責任を持って語られる多様な歴史像が出会う場を作る」歴史コミュニケーションの重要性が語られました。

 

3人の講演の後、パネルディスカッションを行いました。
事前にCoSTEP受講生から集めた質問などをもとに、テーマを6つ設定し、3人の登壇者と聞き手の宮本で議論を行いました。

歴史の訂正可能性と科学の訂正可能性についての共通点についての話では、歴史や科学を固定的な存在として考えてしまう人が多いという問題点が語られたり、科学技術コミュニケーションにも通じる歴史コミュニケーションのコツが見出されました。

 

最後に、CoSTEPの所属する大学院教育推進機構、機構長の山本文彦さんから、閉会の挨拶がありました。
山本さんはご自身も西洋史学の研究者です。

山本さんは学生さんからよく「歴史を勉強すると、将来何の役に立ちますか。例えば就職活動の面接で『会社にとって、どういう能力を貴方は発揮できますか』と聞かれたときに、何と答えたら良いでしょう」と聞かれるそうです。
そこで山本さんは「いろいろなことを複雑に考えて、それをきっちり、はっきりと説明できることが歴史家なんじゃないか」と答えるとのことでした。

 

こういった形で様々な歴史コミュニケーションの形が語られ、シンポジウムは幕を閉じました。
本シンポジウムの詳細は、今後JJSCにて公開を予定しております。
お楽しみに!