実践+発信

選科A活動報告「“生きるかたちの新提案」

2024.9.5

グループ名 クラークTV
メンバー 石田智和,川村まなみ,櫻庭育実,坪智也,野中麻衣,山田憲明

1.はじめに

今回の選科A集中演習の3日間の活動内容は、「LIFE」のテーマで20分間のオンラインでのサイエンスイベントを企画・準備すること。私たちの班は、「超長寿」をキーワードに、架空のテレビ番組の特集企画として生放送の形式で、最新のテクノロジーを用いて超長寿の実現を目指す新鋭のベンチャー企業の新規事業を紹介し、それについての参加者の質問や意見を即座に収集して討論するというイベントを実施しました。参加者のエンゲージメントを高め、インタラクティブなイベントとなるための工夫を凝らし、フィードバックや評価をもらって科学技術コミュニケーションについての学びの内省ができるようになることを到達目標としました。

【メンバーの役割】
出演:坪(番組MC),野中(ベンチャー企業のCEO),石田(長寿研究が専門のコメンテーター)
テクニカルオペレーション:川村,櫻庭
タイムキーパー:山田
チラシ:櫻庭
アンケート:川村
制作:全員

(チラシ制作:櫻庭育実)

2.企画内容

テーマの選定理由と目的

日本は世界で最も平均寿命が長い国の一つであり、110歳以上のスーパーセンテナリアンも数十人存在しています。超長寿を目指す科学技術の発展は多くの可能性を秘めていますが、倫理的な課題や過度な期待を煽るリスク、社会的・経済的に及ぼし得る影響といった現実的な問題もあります。

科学イベントのテーマとして「超長寿」は多くの人々の関心を引く興味深いトピックであり、慎重な議論とバランスの取れた視点が求められるやりがいのあるチャレンジングなテーマであると考えました。この企画を通じて、参加者が科学技術の利用を考える際にそのメリットとデメリットをいつも意識し、技術の進歩が社会に与える影響について議論するきっかけとなることを目的としました。

想定した参加対象

長生きや健康的な生活習慣に関心のある一般の人々、超長寿に関する研究者や専門家、超長寿社会の未来を見据える政策立案者や企業等々

3.イベントの流れ

番組構成としては、事前作成動画とライブ配信を組み合わせたテレビ番組形式を採用しました。今回はOBS Studioを経由しYouTube Liveへ配信することで番組形式の実現が可能となりました。OBS Studioとはビデオ録画と生放送用の無料でオープンソースのソフトウェアで、リアルタイムでの映像/音声のキャプチャとミキシングを行い、カスタムトランジションによって無制限のシーン間をシームレスに切り替えることができるツールです。参加者からのYouTubeのコメントをその場でピックアップし、OBS Studioを使用して番組画面へ反映させる試みも実施し、それをもとに番組内で出演者がディスカッションを繰りひろげました。なお、CM広告や次回番組予告、インタビュー動画は、Davinci ResolveおよびAdobe Premiere Proを使って編集・作成しました。

シーン1「番組のオープニング」

シーン2「ベンチャー企業のテレビCM広告紹介とCEOによる事業説明」

(株)Ch∞juは、「超長寿社会に、科学で選択肢を」をミッションに、超長寿を望む人びとの人生を最新の科学技術でサポートするベンチャー企業です。
主な事業は2つ。ひとつは身体的な長寿を支援する事業で、例えば人工冬眠の技術を実用化し、いわゆるコールドスリープを事業化します。もうひとつは、精神が半永久的にありつづけるという意味での超長寿事業です。海外では、生前の会話の録音や思い出の記録から、当人が亡くなった後でも会話ができるAIのサービスが実装されています。この技術を踏まえて、同様のサービスを日本で初めて提供します(会社名を含む上記事業は架空のもの)。

(Ch∞juのテレビCMの1カット)
((株)Ch∞juの紹介パネル)
シーン3「ベンチャー企業の新規事業について、長寿研究の権威がコメント」

シーン4「ベンチャー企業のCM広告について街頭インタビュー」

インタビュイーはメンバーの山田と川村が務めました。

(株) Ch∞juの新規事業への関心や懸念にトーンの差はあるものの、2人からは期待を含め肯定的なコメントをしました。

シーン5「視聴者からの質問やコメントについて出演者が回答・討論」

〈以下、討論内容を一部抜粋〉

視聴者)コールドスリープで自分の蘇った世界がどんな未来になっているか、想像するとわくわくする。

CEO)事業化するにあたって、肯定的な意見、わくわくするという意見を持っていただける人が増えれば、普及率も高くなり、その思いが広まっていってくれると嬉しいです。

 

視聴者)VIPや生前に活躍した人の死後、AIを作って影響を与え続けてもらうことは、社会にとってもプラスになると思う。

MC)このような意見もありますが、倫理的には大丈夫なのでしょうか。

専門家)やっぱりそこは心配なところですよね。でも見たくないですか?私個人としては、とても気になります。

 

視聴者)人間は与えられた限りある1回限りの人生を全うしてこそ人生ではないか、と思います。

CEO)今回の事業は、「科学で選択肢を」をコンセプトに、選択肢を増やすことを目指しているものです。そのような選択肢をお考えの方に向けた事業です。ですので、当事業に苦手意識を持たれている方のお考えを否定するものではありません。

 

視聴者)自分が死んだあと自分の知能を持ったAIが犯罪を起こさないか心配...

CEO)法律的にまで整備されていません。なので、これから検討しなければならない点の一つであると思います。

シーン6「エンディングと次回番組予告」

次回番組予告では長寿による高齢化水準の上昇により、高齢者も働かざるを得ない社会実態を描写し、超長寿がもたらす否定的な側面をアンチテーゼとして示しました。

4.アンケート結果

配信終了後GoogleフォームのURLを視聴者へ共有し、25件の回答を得ることができました。アンケートは、本番組を作成した目的である「科学技術を利用する上でのメリットとデメリットを意識し、判断できるようになってほしい」というメッセージを、視聴者にうまく伝えることができたかを主に調査するために行いました。

回答者の属性

回答者の年代は50代が最も多く全体の36%を占め、次いで20代が32%、30代が16%と続きました。

番組テーマである超長寿ビジネスの表現手法に関して

今回我々が工夫した表現手法である「テレビ番組形式」、「スタジオでの生放送」、「街頭インタビュー」、「YouTubeコメントの番組画面上への表示」の計4項目について評価を得ました。

いずれも番組テーマである超長寿ビジネスへの理解を助ける効果があったという肯定的な評価が過半数となりました。
特に「スタジオでの生放送」については、理解を助ける効果があったか、という問いに対し、「強くそう思う」の割合が最も多くなりました。

番組テーマである超長寿ビジネスの表現手法に関して

次に、「このイベントは、科学技術利用を考える際に、そのメリットとデメリットを意識するきっかけになりましたか?」という質問に対し、1(全くそう思わない)から5(強くそう思う)の5段階で評価を得ました。

その結果、全体の52%と過半数で4または5の高評価を得ることができました。

高評価の理由としては下記の意見が挙げられました(一部抜粋)。

  • コールドスリープ、AIアンドロイドどちらも科学技術のメリット・デメリットを考えるうえで、自分事として考えやすかったです。
  • タイムリーな話題をうまく入れながら、それを掘り下げていく動きが良かったと思います。何が正しい、という罠に陥らないところが、なかなか大変ですが、オペレーション的に興味深く思いました。

また、YouTubeコメントの番組画面上への表示に対しての肯定的な意見も得られました。

  • 番組つくりが丁寧でよかった。リアルな反応を拾う作業も素晴らしかった。
  • 番組自体は技術利用賛成の構成でありながら、コメントを拾うことで問題点を入れ込んでいくのが巧みでした。

中・低評価の理由としては下記が挙げられました(一部抜粋)。

  • 自分にとってテーマがリアリティがあまりなかったので
  • デメリットについて話題には上がっていたが、どちらかというとメリットに寄っていたような気がします。反対派の人がスタジオにいてもよかったかもしれません。
  • 出演者や街頭インタビューをふりかえると、デメリットが少し出にくいかも構成しれないなと思いました。
イベント全体に対する感想・意見(一部抜粋)

【肯定的】

  • クオリティが高かった。参加したくなる気持ちが高まった。
  • 興味深く視聴させていただきました。超高齢化社会のなかでのELCI問題で面白かったです。続編が見たいです。
  • テレビ番組形式がとても理解に役立った。

【否定的】

  • YouTube LIVEのコメント欄とその中から意見を抽出して表示したかのような映像下部のコメント欄の表示内容が違うので、表示する意見を恣意的に操作しているように見えた。

【その他】

  • 高齢者の場合、長生きした際の家族の負担を考えると難しい選択かもしれないと思いました。これからの時代を生きる元気がないかなと個人的に思います。でも人によってはメリットがあるのではないかと強く思いました。生かすメリットがある人はお金をかけて支援した方が日本にはいいのかなと思う。
  • 科学技術利用のメリットデメリットというよりは、死生観についてみんなはどうなんだろう?と思う比較できるいい機会だったと思います。なにを狙いとしているのかがちょっと見えなかった感じもありますが。
アンケート結果からのまとめ

「科学技術を利用する上でのメリットとデメリットを意識し、判断できるようになってほしい」というメッセージを、過半数の視聴者へ届けられたことがわかりました。一方で今回の目的を伝える上では、番組内でのデメリットの提示が不足していたことも明らかになりました。

また、配信を純粋に楽しんでいただけた意見が多く得られたことは、今後の科学コミュニケーション活動を続けていく上での励みとなりました。

5.イベントを通じて学んだこと、所感

企画発案からアンケートの分析・活用までの一連の方法を、実践の中で学ぶことができました。今回は番組風のフィクションをベースにしましたが、今後は別の手法も模索していきたいと思います。また作業については、各個人の適性や関心に応じて役割分担し、比較的スムーズに作業を行うことができました。気になることがあれば都度コミュニケーションを取り、進捗報告やすり合わせを行う時間を意識的に設けることも重要だと感じました。

チャット欄のコメントを実際に拾うかたちでの双方向のコミュニケーションについては、初のYouTube Liveでの開催ということもあり、さらなる工夫ができるのではないかと感じました。他班ではアンケート機能を使うなどの工夫もみられたことから、各手法の適性を理解し、参加者のモチベーションを想定したうえで、今後もイベントの目的に即したコミュニケーションの形を選択していきたいです。

(1日目の企画書プレゼンの様子)
(作業風景)
(リハーサルの様子)

3日間、お疲れさまでした!

最後に、CoSTEPの関係者の皆さま、すべての参加者の方々に深く感謝を申し上げます。

(集合写真。一番左は担当教員の寺田一貴先生)

本記事は、2024年7月15日(月/祝)に実施した2024年 選科Aオンラインサイエンスイベント「LIFE」の報告記事の1つです。CoSTEPの選科Aコースでは、全国各地の選科A受講生が札幌に集まり、オンラインサイエンスイベントをいちから作り上げる3日間の集中演習を行っています。24人の受講生が4グループに分かれ、計4つのイベントが行われました。報告書ができ次第、以下のリンクより、ご覧いただけます。他の活動報告もぜひご覧ください。

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