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2025年2月10日(月)18:30〜20:00、第139回サイエンス・カフェ札幌「しゃっこい雪の、なまらためになる話 ―北海道の雪を科学する」を札幌市民交流プラザにて開催しました。ゲストに気象学を専門とする佐藤陽祐さん(北海道大学大学院理学研究院 准教授)を迎え、大内田美沙紀(CoSTEP 特任助教)が聞き手役を務めました。
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今回のサイエンス・カフェ札幌のテーマは「雪」。2025年1月は、札幌は年明けからしばらく比較的暖かい日が続き、「18年ぶりの雪不足」とまで言われていました。この現象が温暖化によるものなのかはまだ分かりませんが、佐藤陽祐さんはスーパーコンピューターを使って、温暖化した将来の北海道の気象を研究しています。
2025さっぽろ雪まつりの会場近くの札幌市民交流プラザにて、高校生をはじめとした雪に関心のある32名が参加しました。
参加者による雪の結晶の撮影
今回のサイエンス・カフェでは、新しい試みとして、事前に参加者の方にマクロレンズをお配りし、雪の結晶を撮影してもらいました。カフェ参加前に身近な雪を撮影してじっくり観察をしてもらうことで、雪に対する興味をさらに深めてもらうことが狙いです。1月はまさかの少雪で、撮影のチャンスは限られていたかもしれませんが、それでも多くの方が撮影した写真を投稿してくださいました。
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カフェの冒頭では、佐藤さんが投稿された雪の結晶写真一枚一枚にコメントをしました。中にはプロフェッショナルなものもあり、その撮影技術には脱帽しました。
すっきりした樹枝状のものから、粒状のものが付着して歪な形になったものまで、さまざまな結晶が見られました。これらを比べるだけでも、後の話につながる「雪質の違い」が浮かび上がってきます。
そもそも、雪はどのように生まれるのか
美しい「雪の結晶ギャラリー」の後は、佐藤さんによる雪の成り立ちの話が始まります。
そもそも雪は、大気中に存在する水分が集まってできる雲から生まれます。雲を構成する粒(雲粒)が気温の低い「冷たい雲」の中で成長し、氷の結晶(氷晶)となります。さらに、氷晶同士が凝集することで雪となり、地上へ降りてくるのです。
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雪結晶のかたちと気温・水蒸気量の関係
それでは、なぜ雪の結晶にはさまざまな形があるのでしょうか?
その謎を解く上で、北海道大学で雪の研究に傾倒した中谷宇吉郎博士の業績は欠かせません。中谷博士は、研究の中で、大気の温度と水蒸気量が雪の結晶の形とどのように関係しているのかを明らかにしました2)。その後、多くの研究者によってこの関係が整理され、図1で示されるように、水蒸気中で成長する雪結晶の形は、温度が低下するとともに、板状(0~-4°C)、柱状(-4~-10°C)、板状(-10~-22°C)、柱状(-22°C以下)と繰り返し変化することが分かりました。
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それでは、なぜ板状の雪の結晶は六角形の構造をしているのでしょうか?
その理由は、雪を形作る水分子の構造にあります。
水分子は、一つの酸素原子と二つの水素原子が電子を共有して強く結びついています。そして、水分子同士が結びつく際には、「水素結合」と呼ばれる、酸素原子と水素原子の間に生じる静電引力で引き寄せられます。すると、構造上最も安定するのが六角形というわけなのです(図2)。
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実際はこの六角形が立体的に集まった構造をしていますが、横に伸びて板状になるときは六角形が際立ち、縦に伸びて柱状になるときは針や「さや」のような形に見えるのです。
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雪が重くなる「ライミング」現象とは?
中谷博士の雪の結晶ダイアグラムは、周りの空気を取り込んで凍る「凝華」という成長によるものですが、雲の中では氷晶と雲粒がぶつかってくっつく「ライミング」という成長過程も存在します。ライミングが繰り返さられると、氷晶の質量が増加し、「重い」雪となったり、霰(あられ)となったりして地表へ降りてきます。
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北海道の雪がさらさらしているのは、雲の中の気温が低いためにライミングが起こりにくく、軽い状態の雪が降るからです。一方、北海道以外の地域ではライミングが起こりやすく、重い状態の雪となり、北海道のようにさらさら・ふわふわした質感にはなりにくいようです。
将来の北海道の雪をシミュレーションする
では、将来の北海道の雪はどうなるのでしょうか?
これまでの雪の成り立ちや雪質に関する話を踏まえ、佐藤さんの気象シミュレーションの研究へと進みます。
佐藤さんの研究では、北海道大学と気象庁気象研究所が独自に開発したシミュレーションプログラム(PTM)を使っています4)。PTMは氷晶が雲の中でどのような形になりやすいかを計算することができるもので、中谷博士の結晶形状モデルやライミングの影響を考慮しています。
このPTMを北海道大学のスーパーコンピューターで実行し、数値シミュレーションを行うことで、雪の特徴が現在と温暖化が進んだ将来とでどのように変化するのかを調べました。
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結果、温暖化が進むと北海道で降る雪はライミングが多く起こり、現在の本州(特に北陸地方)で降る雪のように変化する可能性があることが分かりました。つまり、将来の北海道の雪は、現在のようなさらさらとした質感ではなく、より水分を含んだ「重たい」雪になると考えられます。
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高校で物理や数学を勉強する意味
カフェの後半は、会場から集めた質問に佐藤さんが答える質疑応答のコーナーです。
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「雪の結晶を上手く撮るコツ」といった技術的な質問から、「重たい雪になると雪まつりはどうなってしまうのか?」といった温暖化による影響を懸念する声まで、雪に関するさまざまな質問が寄せられました。さらに、高校生からは「理系科目が苦手だが、どうやったら好きになれるのか?」といった学習に関する相談もありました。
先に紹介した中谷博士も、佐藤さんも、雪の研究をしていますが、実はどちらも元々物理学の出身です。佐藤さんは、今回紹介したシミュレーションを含め、あらゆる研究が、高校で習う物理・化学・数学の発展形だと言います。「物理や数学を勉強することで、世の中のしくみがよりクリアに見えるようになる」と、理系科目への学習意欲を高めるようなアドバイスを送りました。
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今回のサイエンス・カフェが、参加者された皆さま、そして動画をご覧になった方々にとって「なまらためになる」機会となっていれば幸いです。
ご参加いただいた皆さま、運営を手伝ってくださった20期CoSTEP受講生の皆さま、そして佐藤さん、本当にありがとうございました!
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注・参考文献
- 「雲の微物理過程の研究」荒木健太郎(2025/3/2閲覧)
- Nakaya Ukichiro 1954: “Snow Crystals: Natural and Artificial”, Harvard University Press. ISBN978-0-674-81151-5.
- Y.Furukawa and J.S.Wettlaufer 2007: “Snow and ice crystals”, Phys.Today 60, 70-71.
- Y.Sato et al. 2024: “Future Change in the Contribution of Riming and Depositional Growth to the Surface Solid Precipitation in Hokkaido, Japan”, Journal of Applied Meteorology and Climatology 63,10.