12月12日、東京大学の早野龍五先生による講義が行われました。早野先生は、東京大学理学系研究科の教授で、スイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)の研究所では「反物質」の研究をされています。昨年3月の東電福島第一原発事故の直後から、自身のツイッター(http://twitter.com/hayano)などで放射線・放射性物質に関する情報発信を積極的に続けて来られたことでも知られています。
3.11 東日本大震災発生 ツイッターで情報発信
2011年3月11日、早野先生は東京で地震に遭遇しました。原子力発電所の深刻な事態が報道されるのを見て、「何が起きているのか自分で理解したかった」。関係機関の発表に解説を添え、自身のツイッターに「つぶやき」始めました。例えば「セシウム137とは何か」といったことです。
さらに、東電などが発表した数値のデータから、多くの方が一目で自体を理解しやすいようグラフを作成して投稿しました。その影響は大きく、その後「グラフを作るのは自分にもできる」と考えた多くの人がそれぞれのスキルを生かした「情報の見える化」に取り組み始めたのです。
ツイッターの強みと限界
早野先生のツイッターは、混乱の中で多くの人に知られるようになりました。先生は、そのツイッターの「強みと限界」にも触れています。 強みは、発信した情報のフィードバックが直接自分にも届く双方向性があること。人々が何を不安に思うか、誤解されやすいことは何かといったことを学びながら投稿を続けました。 一方、ツイッターのやりとりは「所詮はインターネット上の論壇」。これだけでは問題解決は達成できないとも指摘しています。
食品と人体の放射能測定 内部被ばくを調査
空間や土壌における汚染の実態が明らかになるにつれ、食品を介した被ばくへの懸念が高まりました。そこで、早野先生は「給食まるごと検査」を提案します。学校給食を丸ごとミキサーにかけ、高精度の検出器で毎日測定するのです。予算や、自治体の体制にさまざまな障害があった中、2012年1月から検査を始めました。 また、福島県南相馬市で、ホールボディカウンター(WBC)を使った全身の放射能検査のために、機器の不具合を調整するなどのサポートにも尽力しました。検査の結果、ほとんどの住民の内部被ばくは不検出か、ごくわずかであることがわかりました。
消えてしまった放射性ヨウ素 初期被ばくを知る挑戦
原発事故直後に放出された放射性ヨウ素131は、半減期が8日しかないため、後で検査しても検出できません。しかし、震災と事故の混乱の中、事故直後の測定は不十分でした。そこで、先生は当時の様々なデータをもとに、「どれだけの人が、ヨウ素131による被ばくをどれだけ受けたか」を推測しています。 使ったデータは、「SPEEDI」など4種類の放射性物質の拡散シミュレーションの結果と、携帯電話の位置情報サービス利用者の移動記録です。データに不確実性が伴うため慎重に評価中です。
一方で、早野先生は「甲状腺がんが見つかった子どもは、事故との因果関係を問わず治療費を負担すべき」とも主張します。甲状腺の検査を続ければ、被ばくと関係ないがんも見つかるはずです。そのとき、できるだけ被災者の立場を優先するしくみにすべきだというのです。「最悪の想定で、どれくらいか」という予測を示すことは、予算をつけやすくするためにも必要だったのです。
何が求められているのか
大震災から1年9か月の間、早野先生は研究者でありながら市民の立場に立ち続けていました。わたしたちは福島弁を喋れませんが、それぞれの地域に根ざした存在であることはできるはずです。まさに「科学技術コミュニケーション」を学ぶわたしたちに、そのあり方を問う講義でした。(本科 前田明裕)