科学を伝える力を磨く3日間
2025年9月13日から15日にかけて、日本各地から受講生が集まり、選科Bの集中演習を実施しました。この演習は、科学技術に関する情報を一般の方々にわかりやすく伝えるスキルを磨くことを目的としています。

受講生は、科学技術コミュニケーターの役割について、高校生向けの2000字程度の記事を作成しました。3日間の演習を通じて、企画から執筆、推敲までの一連のプロセスを体験し、実践的なスキルを磨きました。
1日目:アイデアの創出と基礎スキルの習得
1日目は受講生同士の自己紹介と相互インタビューから始まりました。「書く」以前の「聴く」「見る」力を育む時間となりました。午前中の「たくさんのわたし」を認識するワークでは、多面的な自己理解とインタビューの基本的な考え方を学びました。

午後には、高校生という読者像を具体化するワークに取り組み、具体的な読者を想定することの難しさとおもしろさを実感しながら高校生に向けた記事執筆の基礎を固めました。班ごとのピアレビューでは、「伝わる」表現をめぐって議論が交わされました。

(想定する読者について考えました)
2日目:文章力向上と相互フィードバック
2日目は会場を北海道自治労会館に移し、より実践的な文章表現のトレーニングを中心に行いました。文章デッサンでは、イメージを正確に言語化する練習を通じて、表現力の向上を図りました。

(同じ情報から生まれたさまざまな表現。「伝える」と「伝わる」の違いを体験しました)
班ごとのピアレビューに加え、班をシャッフルしたピアレビューも実施し、多様な視点からのフィードバックを受けることができました。他者の言葉に触れることで新たな気づきも生まれました。

カフェルーム
カフェルームでは、コーヒーや紅茶、お菓子、各地からのお土産などが並び、受講生がほっと一息つける空間でした。また、ワークで執筆した他己紹介の原稿や、執筆段階がわかる原稿、言葉集めの付箋(ことばの木)などを掲示するコーナーもあり、参加者同士が刺激を受け合っていました。

3日目:仕上げと振り返り
最終日は、原稿の完成と発表に向けた総仕上げを行いました。午前中には最後のピアレビューと記事提出を終え、午後は「ライティング虎の巻」の作成を行いました。それぞれの班が、この3日間で得た「執筆の心得」をまとめ、共有しました。

(完成に向けて最後の推敲)
ライティング虎の巻
演習最終日の午後は、グループごとに3日間で得た執筆の心得を「ライティング虎の巻」にまとめて発表しました。

最後の振り返りでは、「あなたにとって書くことは?」というお題に対して一人ずつ発表しました。


最も印象深いプログラムとして多くの受講生が挙げたのが、ピアレビューでした。
「2日目に15分×5回のピアレビューを連続して行ったときに、本当にさまざまな意見に出会えてためになりました。限られた時間だからこそ、密度の濃い時間だった」
「みなさんからいただいたピアレビューの意見が全部大切で、意見の選択に苦労しました。構成に悩んだときは思い切って段落ごと消してしまうと踏ん切りがついて、次の新たな文章が作成しやすかった」
「文章は書き手と読み手のコミュニケーションで成り立っているのだと思いました」
書くことへの新たな発見
「科学技術コミュニケーションという名前であっても、科学『技術』そのものをテーマにして行うことのみではない、もっと広くとらえていいんだ、というのが気づきでした」
「書くこと・読むことは時空を超えた双方向的なやりとりであると実感しました」
「科学技術コミュニケーションに、型や技のような決まりきったものはないと感じました。大切なことは伝えたいことや伝えたい人と正面から向き合うことだと思いました」
充実した3日間
「普段の職場を離れ『書く、読む、直す』ことに集中できた、ストイックかつ充実した3日間でした」
「名刺交換もせず年齢も肩書も深く分からないままただ書いた文章でつながる大人の関係、めちゃくちゃ良かった」
その他の気づき
文章デッサンについても、「絵から文を作ったり、文から絵を描くワークで、同じ例題から人によってこんなにも違う回答が得られるんだ、考え方ってこんなに違うんだと印象に残りました」という声がありました。
また、読み手である高校生を調べるワークでは、「自分にとって想定外の気づきが多くて面白かった」との感想が寄せられました。
事前課題の効果
事前課題として提出した企画書については、95%の参加者が「課題文執筆のための思考の助けになった」と肯定的に評価しました。
「企画書のテンプレートを初めて見た時に項目が多く記入内容も難しいと感じたが、記事執筆に取り掛かった際に、企画書に情報や自分が書きたい思い、注意したい点をまとめていたことでスムーズに書き進められた」という声に代表されるように、企画書が執筆の道筋として機能したことが確認できました。
総括
科学技術の急速な発展が続く現代社会において、専門知識を持たない一般の方々にもわかりやすく情報を伝える能力は、ますます重要になっています。
今回の集中演習では、受講生が執筆に集中して取り組み、多様なバックグラウンドをもつ仲間とのピアレビューを通じて、文章を磨き上げていきました。「他の人の視点を取り入れることで、自分の文章が大きく改善された」「一人では得られない学びがあった」という声が示すように、協働による学びの場として機能したといえます。
また、「サイエンスライティングは特別なものではなく、科学技術という難しいテーマだからこそ、伝える際には一層の配慮が必要」「普段の仕事も科学技術コミュニケーションの一部だったと改めて感じた」との気づきも寄せられました。
3日間で得た学びと、この演習を通じて築いた受講生同士のつながりを、それぞれの活動分野で活かしていってください。
今回の集中演習は、単に原稿を完成させるだけでなく、「科学技術コミュニケーションとは何か」という問いを受講生自身が体験として掘り下げる場でもありました。受講生の皆さんが今後それぞれのフィールドで、科学と社会のあいだに“ことば”の橋を架けていってくれることを願っています。
