快晴の2013年7月21日(日)、第70回サイエンス・カフェ札幌「光る分子が世界を描く 〜カメレオン発光体、発明!」が14時から開催されました。ゲストは北海道大学 大学院工学研究院 教授の長谷川靖哉(はせがわ やすちか)さんです。
長谷川さんは紫外線をあてると光る「発光分子」の研究をしています。簡単な実験をいくつも交えながら発光分子とは何かを解説していただき、後半は、発光分子はどのように使うことができるのかを、参加者の皆さんからのアイディアも交えてお話ししていただきました。
黄色い栄養ドリンクは光るか? 光るんです。 |
まず長谷川さんから、「光るもの」にはどのようなものがあるのか、というお話がありました。光るものは電球や蛍光管、LEDといった電気エネルギーで光るものだけではありません。光をあてると光るものもあります。洗剤の中には、真っ白に見せるための発光分子が入っています。また、健康ドリンクの中にも光るものがあります。これはもともと光る性質を持っているビタミンCが含まれているからです。
これらの発光分子は有機分子でできており、身近なところでは蛍光ペンなど、さまざまに利用されています。しかし、熱に弱いという性質があるため、応用の幅が狭いという弱点がありました。
光る金属錯体で字を書くデモンストレーション。はじめは無色透明ですが、紫外線をあてると赤く光る文字が! |
そこで長谷川さんが着目したのは「金属錯体」です。有機分子の中心に金属をもつこの分子は、熱にも強く、様々な性質を持つ発光分子を作ることが可能なのです。
長谷川さんはこれまで作ることが難しかった赤色に光る金属錯体の作製に成功しました。また、光る強さが世界一の金属錯体の作製にも昨年成功しています。これにより、既に開発されていた青と緑の発光分子とあわせて、フルカラーの発光が可能になり、世界的に非常に大きなインパクトを与えました。
さらに今年の5月に、長谷川さんは「カメレオン発光体」というこれまでにない発光体を発表しました。これは緑に光る金属と、赤く光る金属の二種類を含む金属錯体で、緑色から黄色、オレンジ色、赤色と、氷点下から200度という広い幅で、正確に素早く変化する全く新しい発光分子なのです。
カメレオン発光体が塗られた紙飛行機。液体窒素で冷やし、紫外線をあてると緑色に光ります。この後、「大気圏に突入します!」の声とともに温風をあてると、みるみる黄色からオレンジ色になりました |
カフェの後半は、これらの発光体にはどのような使い方の可能性があるのかをテーマとしました。
現在、カメレオン発光体はいわゆるスペースシャトルの設計での応用が進められています。スペースシャトルは、極寒の宇宙空間から地球の大気圏に突入するときに機体表面が高温になります。このカメレオン発光体を試験機体に塗れば、機体の温度変化を正確に測ることができるのです。このほかにも高速で移動する様々な乗り物の開発に応用が可能です。
会場からは、「カメレオン発光体をビルに塗って巨大な温度計に」「化学物質などを検知するセンサーに使える発光分子」「がんを検知する発光分子」といったアイディアが飛び出しました。長谷川さんによると、実はこれらについても検討されているとのことでした。
急に呼ばれて戸惑い気味の中西さん |
カフェ終盤には、長谷川研究室の助教、中西さんも登場。中西さんは金属錯体を応用した省エネルギー技術について研究を進めていますが、長谷川研では明るく楽しい雰囲気で研究を進められる、とのこぼれ話が印象的でした。
ユーモアあふれる語り口で会場を沸かせた長谷川先生。最後は「どんなに便利な物でも人体や環境にとって良くないものは使うことはできない」との言葉でお話しを締めくくられました。
科学技術を考える上で重要なメッセージだったのではないでしょうか。
今回のサイエンス・カフェ札幌は、初の液晶ディスプレイを導入しての実施となりました。会場が明るいためプロジェクターでは見づらい、とのご意見に対応したものです。
また、光る分子は百聞は一見にしかず、見られなければ意味がない、ということで光るポスターの展示、光る絵の回覧、実験デモなど盛りだくさんの内容としました。準備や実施に手間がかかりましたが、紫外線で浮かび上がる鮮やかな光に、会場からは「おーっ」という声も漏れ、楽しんでいただけたようでスタッフ一同安心いたしました。
今後も様々な試みを取り入れ、よりよいサイエンスカフェを作っていきたいと思います。
長谷川さんをはじめ、ご協力頂いたみなさん、参加者のみなさん、ありがとうございました。