実践+発信

「インストラクショナルデザイン基礎:心理学的側面」97日向後千春先生の講義レポート

2013.10.2
「実際に人に何かを教える時に、『教える技術』の重みは何パーセントぐらいだと思いますか?」という問いかけからはじまり、教える技術、すなわちイントラクションデザインについてワークショップを交えながら、「教え方」「学び方」の科学的な枠組みについてご講義頂きました。
学習成果を決定する要因は、?学習者本人の元々の能力(40%)、?教え手側からの受容・共感・励まし(30%)、?学習者本人の期待・プラセボ(15%)、?教授技法(15%)から成り立っています。実は、教授技法の占める割合はわずか15%なのです。しかしだからこそ、教育工学の研究成果に基づき、教授者が手順を踏んで努力すれば改善するとができるこの「15%」が大切だとも言えるでしょう。また学習は、?運動技能[精神的領域(体=技能)]、?認知技能[認知的領域(頭=知能)]、?態度技能[情意的領域(心=態度)]の3つの技能領域に渡って生じるとのことでした。
1.運動技能を教える
運動技能を教えるためには、難易度を徐々に上げていくことと、学習者が行動したことに対して即時にフィードバックすることの2つが重要なポイントになります。授業の中で、私たち受講生がそれぞれ「動物」と「トレーナー」の役割を担当し、「トレーナー」が言葉を使わずに「動物」に目標の動作を行ってもらう、「シェイピングゲーム」を体験しました。このゲームにおけいて「学習」を成功させるポイントは、単純でやさしい課題から始めて少しずつハードルを上げていくことと、相手をよく観察してすぐにフィードバックを返すことです。
2.認知技能を教える
認知技能を教えるためには、「その人なりの理屈(バグルール)」の修正を促すとともに、学んだ問題解決手法を別の問題に応用する「転移」を促すことが必要になります。学習者本人が科学的な知識を持つ前に素朴な疑問を持つこと、そして、教科書に記載されていること以外の新しい概念を受け入れることが大切です。教授者は、学習者がどんな「概念」を持っているか見極めた上で、修正する必要があります。
3.態度技能を教える
態度技能を教えるためには、学習者に「何が出来ていないか」を教え、変化を促す必要があります。教授者があまり直接的に指摘すると、学習者は反発してしまい、結局学習が行われなくなってしまいます。夏休みの子どもの宿題を介しての親子のやり取りを例に、教授者が学習者に対して、どのように学習を促すべきかということを実践を通じて学びました。ここで、教授者がやってはいけないことは、?議論する、?専門家になる、?相手を責める、?レッテルを張る、?急ぐ、?高飛車になることです。学習者がみずから選択し、実際の行動に移すまでには、?相手に共感を表現する、?矛盾を拡大する、?抵抗に巻き込まれつつ進む、?自己効力感をサポートするといった「動機付け面接法」の原理を応用することが鍵となってきます。
教えて頂いた内容を今回の講義に適用すると、講義の学習成果について、向後先生の教授技法の占める割合はほんの15%ということになってしまいますが、「教えること」の難しさ、奥深さについて、十二分に体得させていただくことができたのではないかと思います。今後様々な実践を行っていく際に「教授者」として振る舞う場面も出てくるでしょうが、今回の授業で学んだことをぜひ活かしていきたいと思います。向後先生、ありがとうございました。
林 えりか(2013年度選科演習B・北海道大学医学研究科博士課程2年)