実践+発信

「サイエンスライティング基礎」7/18葛西奈津子先生

2015.7.23

レポート:小坂有史(2015年度選科 研究補助員)

今年度からCoSTEPでライティング・編集実習などを担当されている葛西奈津子先生が、ご自身の経験をもとにサイエンスライターの仕事について話してくださいました。

葛西さんは大学で生物学を学んだ後、大学院で高次脳機能論について研究しながらフリーランスのライターとして活動を始め、現在はサイエンス・スポーツライターとしても活躍しています。葛西さんは、こうしたこれまでのお仕事を通して、「ライターも得意分野を持つことが大事」だと教えてくださいました。

サイエンスライターを目指した理由

葛西さんは、理科系の科目が得意で、また書くことも大好きな高校生でした。大学に進学後、学生生活を送るうちにサイエンスライターになりたいという気持ちが強くなったそうです。当時は「サイエンスライターなんて聞いたことがない」「そんな仕事で食べていけるの」などと周りから言われることもありました。

しかし自己分析をしてみると、自分は研究よりも、勉強そのものが好きだということに気づいたそうです。つまり「調べて、まとめて、紙に書く」という行為自体が好きなんだと分かったのです。

そこで修士課程では、葛西さん自身が大学3年から取り組んできたトライアスロンをテーマにした研究で修士論文を書き上げました。この時、「自らの体験とスポーツの知識を結び付ければ、サイエンスライターとしてやっていける。この分野は需要がある」と感じたといいます。

スポーツ・サイエンスライターとして

熱中症を防ぐためには、適度に水分を取ることが大切です。激しい運動であればあるほど、汗によって塩分が失われるため、塩分の補給が重要になるのですが、かつてはこの事実があまり知られていませんでした。

トライアスロンをしていた葛西さんは、スポーツ生理学や栄養科学に基づいた事実を調べてスポーツ愛好家に伝える仕事には需要があるのではないかと考え、スポーツ・サイエンスライターという新しいジャンルを切り開きました。

その後は、出版業界で働くフリーランスの組合に加入し、様々なサイエンスの書籍や、スポーツに関する雑誌など幅広いジャンルで執筆してきました。

それだけにとどまらず、スキーとカナダが好きだったことからカナダに関するWebサイトのコンテンツも制作してきたそうです。これらの仕事に共通するのは「好きなことを、とことん追求する」という姿勢です。

得意分野を持とう

こうした経験を踏まえ、葛西さんはこう話しました。「皆さんが将来就く仕事は、今世の中に存在しないのかもしれません。経験上、自分が好きと思えることを、これは自分の仕事だと真心を込めて一生懸命にやってみると、それはきっと相手に伝わります」。

取り組んだことが1つ1つの成果となって、その仕事を一生続けられるようになっていくためには、得意分野を見つける事が大事です。それが研究分野である必要はありません。自分が「これだ!」と思えるものを見つけ、徹底的に勉強する事が大切です。

科学への感動を大切に

科学技術コミュニケーターにとって、得意分野を見つけ勉強し技術を磨きスキルを積むことはもちろん重要です。しかしそれだけでなく、様々なことを経験し、時には自然や科学に対して畏怖を感じたり、心から感動することも大事です。

葛西さんは最後にこうおっしゃいました。「技術だけでなく感動や経験から初めて出てくる文章こそ、真のサイエンスライティングではないか」。

こうした感受性を忘れないことが、深い科学技術コミュニケーションにつながるのだという事がよく伝わってきました。葛西先生、ありがとうございました。