実践+発信

オンリーワンゲノム

2010.6.29

著者:鎌谷直之 著

出版社:20090600

刊行年月:2009年6月

定価:1500円


 友人から遺伝の基本がわかるおもしろい本があると聞いた。著者は日本人の遺伝のリテラシーの低さに危機感を持って著した、という。リテラシーとは、一般に「読み書きの力」を指す言葉だ。それを聞いて「『遺伝のリテラシー』って何だろう」と思った。私自身、高校、大学で遺伝に関する授業を受けてきたが、全体が煩雑な感じで十分理解できていない。一度スキッとわかりたいものだ、とも思った。そこで、早速取り寄せ読んでみた。

 

 

 なるほど、「中学生、高校生、一般の人たちにゲノム研究の成果を伝えたい」という著者の意気込みだけあって読みやすい。遺伝の基本がスッと入ってくる。また、著者のいう『遺伝のリテラシー』とは、言わば『遺伝を理解するための基本的な能力』のことだと思った。身近なところで『野球』を例にしてみよう。『野球』を理解し楽しむためには、基本的な言葉の意味やルールを知り、それが具体的にはどういうことなのかをイメージできることが大切であることと似ている。

 

 

 読みやすい文章で説明しながら、対応するイラストが「かゆい所に手が届く」感じで添えられている。これらのイラストを制作するとき、わかりにくいところは模型を作り、触りながら著者とイラストレーターが検討したという。イラストというのは自由闊達にいろんな表現ができるものなのだと改めて感じた。目には見えない科学的内容をわかりやすくイメージ化してイラストで伝えてくれるという、漫画でも絵本でもない新たな領域のようにさえ思った。  著者はこう記している。「物理学ではすべての物質が統一された原理に基づいて構成されているし、化学ではすべての分子反応を基礎的原理によって説明できます。生物学ではこのように統一した原理が提供できないので、実に混沌とした世界に見えていたのです」「ところが、混沌とした生物学の世界を、ゲノム配列のデータと遺伝の法則を中心にながめると、極めて美しく統制がとれた生物界が見えてきます」と。

 

 

 つまり、ヒトゲノム配列の解読が2003年に完了したことによって、今まで分からなかった生物学的諸現象を次々とゲノム配列と結びつけて解明できるようになったのだ。そして今、ゲノムに関する研究は目覚ましい発展を続けている。

 

 

 この本は、生物学の発展の歴史を追いながら、進化論やメンデルの法則など遺伝に関する分野が開け、生物学的諸現象の解明が科学者たちの切磋琢磨から進んできた様子を紹介している。諸説の浮沈が記されていて興味深い。そして、ゲノム配列と遺伝の話へと進んでいく。

 

 

 読み進むうちに科学的事実からゲノム配列がもつ多様性に自ずと気づくことになる。著者は最後にこう記している。「何よりも大切なことは、私たち一人一人が途方もない多くの情報を先祖から受け継いでおり、それぞれがかけがえのない、ただ一つの存在である『あなた』を生み出しているという事実です。そして、そのような『あなた』が集まった集団が人間社会なのです。私たちは、人々のその多様性を理解し、お互いを尊重できるような社会を作っていきたいものです。」

 

 

 著者はゲノム創薬、個別化医療など、これからますます『遺伝』に関する情報や市民生活に関わる事項が増える中で、日本人が『遺伝』について読み解く能力を備えていないことを憂いていたのだ。私もこの考えに強く共感した。

 

 

中谷素子(2009年度CoSTEP選科生,大阪府)