実践+発信

新型インフルエンザ H5N1

2010.6.29

著者:岡田晴恵/田代眞人 著

出版社:岩波書店

刊行年月:2007年12月

定価:1200円


2009年5月、国内で初めて新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)(以下「新型豚インフルエンザ」という。)の発生が確認された。感染の拡大はいったん沈静化したかのように見えたが、7月には全国の都道府県から発生が報告されるようになり、この秋は各地で学級閉鎖、学校閉鎖が相次いでいる。WHO(世界保健機関)は6月に警戒水準を「世界的大流行(パンデミック)」を意味する最高レベルの「フェーズ6」へ引き上げており、まさに今、感染拡大の危機が迫っている。

新型豚インフルエンザがどのように出現したのか、その感染力や毒性は季節性のインフルエンザと比べてどうなのか、ということは新聞等のメディアを通じて、おおよそ知ることが出来た。そこからもう一歩踏み込んで、インフルエンザウイルスというのはどういうものか?感染するというのはどういうことが起きているのだろう?インフルエンザ治療薬タミフルはどのように効くのか?ということを科学的に知りたいと思って手にしたのが本書である。2007年に刊行された本書は、新型インフルエンザ(H5N1)(以下「新型鳥インフルエンザ」という。)に関する最新の科学的知見についてくわしく解説されている。

また、スペイン風邪ではなぜ若い世代に多くの犠牲者が出たのかという、私が以前から抱いていた疑問にも答えてくれた。1918年に流行したスペイン風邪(H1N1)はH1N1亜型の鳥型の弱毒型インフルエンザウイルスに由来したものであったが、病原性が強いウイルスで、20代などの若い健康な人に多くの死者を出した。一般に、ウイルスに感染すると、宿主は生体防御反応としてサイトカインなどが産生され炎症が起きるのだが、この反応が過剰に起こるとサイトカインが過剰に産生される「サイトカイン・ストーム」によって、気道閉塞や多臓器不全が引き起こされる。代謝や免疫活動などが旺盛な若年成人では、生体防御反応が特に強く起こり、「サイトカイン・ストーム」が誘導されやすいと推定されている。

 

そして、2003年以降、世界では新型鳥インフルエンザが人に感染しており、その対策のためにワクチンの製造、タミフルの備蓄など国際社会が取り組むべき課題が示唆されている。実際に国際機関や欧米先進国では、新型鳥インフルエンザ対策が推進されてきているのだ。

 

新型豚インフルエンザをより詳しく知るために、と読み始めたのだが、読み終えた後は現在、パンデミックとなっているのが新型鳥インフルエンザでなくてよかったと胸をなでおろした。同時に、国際社会の中でどのような対応をとることが私たちに求められているのかを考えさせられた。

 

最近の研究によると、新型豚インフルエンザに対する免疫を持っている人は、1918年より前に生まれた90歳以上の高齢者で、ほとんどの人には免疫がないらしい。必要以上に恐れることはないが、ウイルスに変異が起きて、より感染しやすいようになっていないか、タミフル耐性ウイルスとなっていないかなどを監視し、迅速な対応をとることができるように、警戒を怠ってはならないといえよう。

 

世界的にワクチンが足りない中、高価なワクチンについて先進国、途上国はどのような政策をとるのか。それは理解されるのか。また、国内でも、限られた人数分のワクチンを誰から優先的に接種するのか。これから議論がはじまることになるのだろうが、その場に市民は参加できるのだろうか。ぜひ、皆さんも考えてみてください。

大藤升美(2009年度CoSTEP選科生、京都市)