実践+発信

辺境生物探訪紀生命の本質を求めて

2011.2.11

著者:長沼毅・藤崎慎吾 著

出版社:20100700

刊行年月:2010年7月

定価:1470円


 南極、砂漠、深海、火山。地球のさまざまな辺境の地や極限環境の世界をテーマに話は進み、最後は宇宙へ。辺境の地とは一体どんなところなのか。なぜ辺境の地で生物の研究をするのだろうか。案内人は、「科学界のインディ・ジョーンズ」との異名をもつ生物学者、長沼毅氏とSF作家の藤崎慎吾氏。2人が実際に、日本のさまざまな「辺境の地」をめぐりながら、極限環境の微生物について対談を繰り広げる。さぁ、過酷な世界で生き抜く微生物を訪問する旅へ、一歩足を踏み入れてみよう。

 

 

 辺境の地の微生物と聞いて何を思い浮かべるだろうか。そもそも微生物とはなんだろう。微生物とは、「顕微鏡で見るような小さな生き物」のことであり、真核生物、バクテリア、アーキアに分類される。人間や動物、植物はすべて、微生物であるカビや酵母と同じ真核生物である。一方で、バクテリアやアーキアは、遺伝子もゲノムも異なる生き物であり、多様性も非常に大きい。それらは、どこにでも適応できる力をもち、地球上に普遍的に存在する。

 

 

 その一つの例が「ハロモナス」。長沼氏が南極大陸で行った微生物調査で大量に採取した、塩を好む微生物の名前だ。ハロモナスの面白いところは、寒冷地でも乾燥した場所でも生きられ、耐えうる環境条件の幅が広いことであると語る長沼氏。深海底の火山、南極海の氷といった大きく違う場所で、遺伝的に同じハロモナスが見つかったことから、この調査を始めたという。その後、長沼氏は北極でも調査を行い、ハロモナスの正体が明らかになっていく……。

 

 

 本書には、研究現場の舞台裏も描かれている。長沼氏の人柄とともに、さまざまな辺境の地での経験がそのまま伝わってくる話ばかりだ。そして、その経験とともに語られる、地球上のいろいろな謎にも興味をそそられる。その一つに、「しんかい2000」で駿河湾に潜ったときの話がある。当時の駿河湾は、熱水もメタンの湧出も発見されておらず、「ただの泥の海底が延々と続く、つまんない海底」だったと微笑みながら回想する長沼氏。駿河湾でクラゲの大群を発見し、「非常に印象深かった」と語っている。なぜなら、深海は餌が少なく生物量は少ないと当時は考えられていたため、大量のクラゲがいることが不思議だったからである。このように、生物が少ないにも関わらず、ところどころで大量に群生している状況は、生物学では「パッチィ(パッチ状の分布)」と呼ばれる。深海でなぜ大群が発生するのかという謎は、エコロジーの永遠の謎で、いまだ解いた人物はいないという。

 

 

 月や火星、土星の衛星であるタイタンといった他の惑星に生物はいるのか、地球の最初の生命は地球で生まれたのか、それとも外からやってきたのか……。そんな壮大な謎から、良質な温泉とはどんな温泉なのかといった身近な話まで、微生物を軸に話が進んでいく。スペシャリストたちの話に導かれながら、飽きることなく次から次へと辺境の地を旅するスリルやわくわく感を体験できてしまう、そんな一冊だ。

 

 

竹田真佑美(2010年度CoSTEP選科生、札幌市)