著者:浅香 正博 著
出版社:20101000
刊行年月:2010年10月
定価:740円
「ピロリ菌」という細菌の名前を聞いたことがあるでしょうか? ヒトの胃の中に生息し、正式な名前をヘリコバクター・ピロリというこの細菌は、1982年にオーストラリアの医師2人によって発見されました。それから約30年。ピロリ菌の発見によって胃の病気についての理解が進み、その治療も大きく変わってきました。この本は、ピロリ菌との関係を中心に、胃の構造や、胃の病気の診断、治療、予防などについて、医学の十分な知識がない人にも分かりやすく書かれた本です。
胃の中ではあらゆる食物を消化する胃酸が分泌されるので、細菌は存在することができないと長い間考えられていました。しかし、ピロリ菌は胃酸から自らを守る機構をもつため、人が幼少期にピロリ菌に感染すると、そのまま一生、ピロリ菌は胃の中にとどまり、胃炎や消化性潰瘍、さらには胃がんの発生にも大きく関わるということが明らかになってきました。しかも日本など東アジアのピロリ菌は欧米のものに比べはるかに毒性が強いといいますから厄介です。
この本では、胃の中のピロリ菌を除菌することにより、胃炎や消化性潰瘍を完治することができることのほか、胃がん発生の予防も可能であることが述べられています。がんの予防といえば、子宮頸がんの原因であるパピローマウイルスのワクチン接種について、最近、ニュースなどで取り上げられることが多くなりました。国内で年間約5万人もの死亡者が出ている胃がんも、ピロリ菌を除菌しておくことにより、その発生を抑制することができるというのです。
日本では団塊の世代以上が特にピロリ菌の感染率が高く、若い世代になるほど感染率は低くなっています。ですから、将来、日本の胃がん発生率は劇的に下がっていくといいます。しかしその前に、ピロリ菌感染率が高くしかも人口の多い団塊の世代が、胃がんの発生の多い年代にさしかかりつつあります。著者は、国の政策としてピロリ菌の感染診断や除菌を早急に行っていくことが、医療費の増大を防ぐためにも、そして何よりも胃がんで亡くなる人を減らすためにも非常に重要であり、将来、胃がんを撲滅することさえ可能であると強く訴えます。
私自身、10年ほど前に胃の病気を患い、その治療の最後にピロリ菌を除菌した経験があります。薬剤を飲んだ後で呼気を採取するというピロリ菌の感染診断に驚き、1週間欠かさず薬剤を飲むだけという除菌方法を意外に感じた記憶があります。それらの診断や治療の内容、そして除菌の効果の大きさについても、この本によってさらに詳しく知ることができました。
自分や家族の胃の健康を守るため、ピロリ菌や胃の病気についてこの本でぜひ知っていただければと思います。
松井 渉(2011年度CoSTEP選科生 福岡県)