実践+発信

月のかぐや

2011.12.10

著者:JAXA(宇宙航空研究開発機構)編 著

出版社:20091100

刊行年月:2009年11月

定価:1300円


2010年6月、日本中が探査機「はやぶさ」の帰還に沸いた。小惑星探査という困難な使命を果たし、奇跡的に地球に帰還した「はやぶさ」。最後は流れ星となって燃え尽きたことを、ご記憶の方も多いのではないだろうか。

 

では、そのちょうど1年前に運用を終えた、日本のもうひとつの探査機をご存じだろうか? その名は月周回衛星「かぐや」。14もの観測機器を備えた、日本初の大型月探査機である。「かぐや」は2007年9月に打ち上げられ、月を周回しながら数々の観測を行った後、2009年6月に使命を終えて月に還った。本書は、そんな「かぐや」が撮影した、月の写真集である。

 

 

本書の約2/3のページは、「かぐや」が捉えた美しい月の写真で占められている。内表紙をめくるとまず、月から見た「地球の出入り」の口絵に迎えられる。ハイビジョンカメラで撮ったもので、灰色の月の地平線を前景に漆黒の宇宙に浮かぶ、青い地球の姿である。さらに本編では、第1章「月の名勝地をめぐる」の中で80ページ以上にわたり、クレーター、海(溶岩が溜まってできた平らな地形)、崖、といった月の風景が紹介されている。第1章の写真の多くは、「地形カメラ」で撮影された。この地形カメラは2台のカメラで撮影することにより、モノクロの立体画像を作ることができる観測機器で、実際には100 km上空から撮影しているにもかかわらず、自由自在な視点からの画像を再構成することができる。そのため本書には、月の地平に立って山を見上げたり、谷を見下ろしたりと、まるで自分が月に居るかのような、鮮明で迫力ある月の風景が広がる。「かぐや」は地形カメラを使い、月の全球を10 mの分解能で撮影している。その膨大な画像の中から選りすぐられた月の表情は、無機質だが、時に文学的とも言える。 

 

 

本書の後半の約1/3には、「かぐや」開発者たちのインタビュー記事などが収録されている。中でもハイビジョンカメラの話は興味深い。ハイビジョンカメラの搭載は、計画当初の目標の1つだった月着陸機を断念した結果、浮いた重量で浮上した話であり、また打ち上げ前には、ハイビジョン映像の送信はあまり期待しないように言われていたとのこと。「かぐや」の主目的は科学観測であり、科学データの送信がハイビジョンのデータより優先されるからだ。ところが打ち上げ後、インパクトのあるハイビジョン映像がとれ始めると、「かぐや」運用チームも俄然協力的になったのだとか。

 

 

本書には、「かぐや」によって史上初めて行われた、月の裏側の詳細な観測など、「かぐや」の科学的な成果もきちんと紹介されている。ただ、「月の美と知をいかに伝えるか」が本書の主眼。写真だけを見るのもまた、その楽しみ方の一つなのだ。本書を読みながら、あるいは眺めながら、今は月で眠る「かぐや」をはじめ、月やその探査に思いを巡らしてはいかがだろうか。

 

 

高橋咲子(2011年度CoSTEP選科選科生 茨城県)