実践+発信

自然に学ぶ粋なテクノロジーなぜカタツムリ殻は汚れないのか

2012.10.16

著者:石田秀輝 著

出版社:20090100

刊行年月:2009年1月

定価:1700円


なぜカタツムリの殻は汚れないのでしょうか。疑問に思った科学者が、殻の表面を顕微鏡で観察してみたところ、表面の小さな凹凸構造が鍵となっていることがわかりました。この構造をセラミック表面に応用することで、洗剤いらずの地球にやさしい外壁タイルを開発することができたのです。こうした自然のメカニズムを利用したテクノロジー――「ネイチャーテクノロジー」が、いま注目を集めています。

 

 

これまで人間は、便利さや効率を追い続け、豊かな暮らしを求め続けてきました。その結果、テクノロジーが暴走することになり、地球温暖化などの問題が発生することとなったのです。結果として地球には多大な負荷がかかり、石油をはじめとした地下資源の枯渇は決定的なものとなってしまいました。自然を支配しようとした近代テクノロジーは、大量生産・使い捨て社会をもたらしたのです。一度手に入れた快適さや便利さは、簡単に手放すことができないものです。しかし、このままでは文明自体が滅びざるをえないかもしれない状態が近づいています。いったい私たちはどうすればよいのでしょうか。

 

 

この本の中で著者は、「今、私たちに求められているのは、自然を自由に制御できると思ってきた錯覚に気づき、自然とテクノロジーのかかわりを新たに見直すことだ」と語っています。そして「以前からあった自然を敬うという自然感を復活させ、人々の考え方を変えていく」ことが重要だと考えています。

 

 

「自然を敬う」という考え方の中で、著者が注目するのは日本の江戸時代の自然観です。江戸時代には高度な技術が大衆にまで広まり、現在と同じく大量生産・消費が行われていたにもかかわらず、可能な限り地球に負荷をかけない循環型社会が維持されていました。未来のために、こうした社会のあり方をもう一度積極的に実践し、実現させていくことが必要だと著者は語っています。

 

 

そんな未来への第一歩として、本書では様々な「ネイチャーテクノロジー」が紹介されています。例えば、今や世界中で利用されている、あのマジックテープは、ヤマゴボウの実をヒントに開発されたのです。「ネイチャーテクノロジー」は、「自然」という完璧な循環を手本として、地球にかかる負荷を最低限に抑えるものであると同時に、工夫を凝らすことによって自然とともに生きるきっかけを作り出すものでもあります。使い捨て社会であった近代テクノロジーに対し、ネイチャーテクノロジーは、「自然」「再利用」をキーワードに、生きることを楽しむ新たなライフスタイルを私たちにもたらしてくれることでしょう。

 

 

なぜカタツムリの殻は汚れないのでしょうか。あなたは考えてみたことがあるでしょうか。様々な「ネイチャーテクノロジー」を知ることで、身近な自然を見る目が変わる、そんな不思議な面白さをぜひ実感してください。

 

 

小林由香里(2012年度選科生 大阪府)