実践+発信

インフルエンザ21世紀

2012.11.1

著者:瀬名秀明 著, 鈴木康夫 監修 著

出版社:文藝春秋

刊行年月:2009年12月

定価:1250円


科学だけでは答えを出せない問題に、私たちが主体的に答えを出していくための学び

交通網が高度に発達した21世紀。短時間のうちに世界中の人々がつながる。そのつながりに沿って、インフルエンザ感染は短時間で拡大する。この21世紀において、わたしたちは、社会は、インフルエンザにどう向き合っていくべきか。

本書は、30名を超える、インフルエンザに関係するさまざまな分野の専門家へのインタビューを基に構成される。2009年のインフルエンザ・パンデミックのドキュメンタリー(第1章)で始まり、次いで科学がインフルエンザウイルスについて何をどこまで分かっているかが描かれ(第2章)、そして人によって感染するものを人の力でどう抑え込むか、の闘いが描かれる(第3章)。その後インフルエンザと接点のあるさまざまな研究が紹介され(第4章)、最後にインフルエンザ対策のための社会制度づくりの取り組みが紹介される(第5章)。

インフルエンザと社会との接点には、科学的な知見だけでは決められない問題がある。例えば、ワクチンの優先順位。体力が衰えている高齢者が最優先か、それともこれからの社会を担う若い世代か、あるいは今まさに社会を支えている働き盛りの世代こそが優先されるべきか。医師やインフルエンザウイルスの専門家に任せる問題ではない。科学の専門家だけでは、科学的な知見だけでは決められない問題に、科学の専門家ではなくわたしたちが、科学的な知見を基に主体的に答えを出していかなくてはならない。

ではわたしたちは、社会は、2009年のインフルエンザ・パンデミックから何を学んだだろうか。

本書で描かれる、インフルエンザウイルスという目に見えないものに対する恐怖感、マスコミの報道のヒートアップ、感染者に対するいわれなき誹謗中傷、意見が食い違う専門家たち、「適切に恐れる」というキーワード、科学的知見と社会的意思決定の切り分けができていないがゆえにすれ違う議論。これら「インフルエンザと社会との接点の問題」と、提示される「問題への向き合い方・考えるべき点」は、インフルエンザウイルスを放射能に置き換えると、福島原発事故による放射能漏れの問題にそのまま適用できる。

著者の瀬名秀明は仙台在住の薬学博士。被災地に住む理系作家ということで、東日本大震災後は福島原発事故による放射能漏れの問題についてコメントを求められたという。しかし彼は沈黙を守り、ブログで「考えるべきことはすべて『インフルエンザ21世紀』に書いた。今の問題は一度、インフルエンザというフィルターを通して考えたほうがいいと思う。」と書いた。

この本を使って、インフルエンザに対する社会としての向き合い方を学び直そう。そしてその学び直しから、福島原発事故による放射能漏れの問題という、科学と社会との接点で起きている現在進行形の問題に正面から向き合うための視点や道具を得よう。わたしたちが、社会が、よりよい未来へ向かって一歩前進するために。

森川浩司 (2012年度選科受講生 宮城県)