5月17日、大津珠子特任准教授による講義「実践入門」が開かれました。この日は、雨模様で最高気温が12℃の一日でしたが、大勢の受講生たちが教室に集まりました。講義の前半60分は、大津先生がこれまでCoSTEPで実践してきたワークショップやサイエンスカフェを具体的に取り上げて、企画から実施を行うための基本的な考え方を解説しました。後半30分は、CoSTEP教員スタッフから科学技術コミュニケーションの多様な実践例を紹介しました。
人を動かしたいと思った時は、ストレートに相手に何をしてほしいか伝える
2008年の夏、北大構内の中央ローン(屋外)で、自分の研究テーマをTシャツにデザインし、それを身につけて専門分野を超えた研究者たちの交流をはかるワークショップを企画したときのこと。大津先生が企画書を手に協力を懇請したのは、佐伯浩総長(当時)でした。デザインの潜在力をアピールした結果、総長もワークショップに参加することになり、学生・院生・教員・総長という立場を越えた異分野交流が実現しました。大津先生にとっての「実践」とは毎回が真剣勝負、まさに「実戦」だったそうです。
実践のゴールは感動をもたらすこと
「学研の科学」が復活すると言うニュースが話題となった2012年、「学研の科学」で育った大津先生は、子どもたちがわくわくするような実験がしたいと考え、「北大でおもしろい企画を実現させます!(でも内容はこれから考えます…)協力してください。」と、学研の編集長に直談判したそうです。幸運にも学研の協力を得られることになり、受講生とともに試行錯誤をくり返し、企画案を完成させました。子どもたちの行動は自由奔放で予測がつかないため安全面の配慮には苦心したそうです。「感動」とは感じて動くこと。つまりイベントをきっかけにして、参加者に別のアクションを起こしてもらうことが実践の真のゴールだといいます。
実践のライフサイクル~サイエンスカフェを例に
CoSTEPが主催するサイエンスカフェは、2005年に始まりすでに74回実施されています。サイエンスカフェは、(1)企画立案、(2)話題提供者との折衝、(3)運営計画づくり、(4)広報、(5)当日の進行、(6)評価、といった6つのサイクルで進めていきます。科学技術コミュニケーターの役割は、このサイクルが円滑に進むよう全体をコーディネートすることです。大津先生が担当した「生命に介入する科学~不妊治療・出生前診断の光と影」では、イベントをともにつくりあげていく「パートナー」としてゲストである石井哲也さんと、何度も議論を重ねました。この準備段階こそがカフェ成功へのカギで、ゲストと信頼関係を築いていくことは重要です。信頼関係を築くことができれば8割成功したようなもの。これからの実践では、信頼関係を築けるように誠意を持って研究者とおつきあいしてほしいと、受講生にアドバイスしました。
科学技術コミュニケーターの5つの役割~実践実例の紹介
「科学技術への市民参加」の促進役(facilitator)である科学技術コミュニケーターの役割には、(1)調査する、(2)普及する、(3)支援する、(4)提言する、(5)組織化する、の5つの役割があります。これらの抽象的な役割を理解しやすいように、CoSTEPスタッフから具体的な取り組みが紹介されました。映像作品の制作、ラジオ番組の制作、出前授業、社会へ向けての「はたらきかけ」、地域と大学の連携、研究者への支援の取り組み、と多様な科学技術コミュニケーションの形態があります。このような多様な実践の形態、科学技術コミュニケーターの役割を知り、一歩踏み出して実践に取り組んでみたいと勇気をもらう、そんな授業でした。