【レポート:池田貴子(北海道大学獣医学研究科博士課程修了・2014年度CoSTEP本科受講生)】
2014年12月21日。路肩にできた雪壁が、そろそろ身長に届こうかという年の瀬の日曜日。札幌市青少年科学館の一角で、CoSTEPがサイエンス・ワークショップを開催しました。タイトルは、「おしえて!マトリョーシカ2」。私達と自然とのつながりを、マトリョーシカの入れ子構造になぞらえて子供たちに楽しく学んでもらおう、というイベントです。パート2の名の通り、10月の札幌デザインウィークに出展した同ワークショップのアンコール企画です。
今回の会場は、この空色の教室。科学館という恵まれた舞台で、しかも2度目のワークショップとあっては、私達のプレッシャーも相当なものでした。ですが心強いことに、前回とほぼ同じメンバーで臨むことができました。4時間のワークショップに備え、張り切って設営をはじめます。
予定外も想定内
12:00、ワークショップスタート。前回の教訓をいかして、まずは気軽にお絵かきから入ってもらうスケジュールです。・・・が、やはり最初からは子供たちは来てくれません。ですが今回はそれも想定内。もうこれぐらいのことでは動じないのです。私達お手製のマトリョーシカやお絵かき用の型紙など、実際にワークショップで使うモノを手に、館内中に呼び込みに出かけます。徐々に子供たちが集まってきました。
いきなり「さぁ、お絵かきしましょう!」と言っても戸惑ってしまいますよね。そこで、スタッフが一緒にお絵かき作戦に出ます。佐々木学さん(北海道大学職員)と上海一輝さん(北大工学院修士2年)が中心になって、子供たちを巻き込んでいきます。
次第に、通りがかりの人達も会場に入って来てくれるようになりました。
いよいよ授業
さて、会場があたたまったところで、いよいよ授業の時間です。先生役のメンバー全員が理系の大学院生であることをいかし、マトリョーシカ+αをつかって身近な科学のおもしろさを伝えます。
1時間目 「土のひみつ」
岩石が生物の力で徐々に土に変わっていく長い長い歴史を、小倉加世子さん(北大農学研究院修士1年)が楽しく解説します。易しい言葉で土の「層」の成り立ちを伝える、かわいい紙芝居です。
2時間目 「緑のふしぎ」
緑の葉っぱが紅葉するふしぎを、佐藤はるかさん(北大生命科学院修士1年)が解き明かします。キーワードをホワイトボードに貼ったり、スマホ顕微鏡で葉緑素を観察したりと、情報を視覚化することで理解をたすける工夫をしました。
3時間目 「鳥のせかい」
こんどはちょっとだけ大人になった気分で。愛を語る鳥たちの行動のひみつを、渡邉綱介さん(北大生命科学院修士1年)が落ち着いたトークで紹介します。ときおり出題されるクイズに、子供たちは一生懸命答えてくれました。
4時間目 「狐のなやみ」
最後の授業は、北海道の風土病であるエキノコックス対策についてです。池田貴子(北大獣医学研究科博士課程修了)がキツネの目線で紹介します。実際に札幌のキツネに感染していたエキノコックスの標本を、スマホ顕微鏡で観察してもらいました。
授業後は子供たちにアンケート
子供たちの理解度と満足度を知るために、アンケートをとりました。授業は面白かったか、わかりやすかったか、もっと知りたくなったか、といった項目が用意されています。纐纈直也さん(北大職員)と田中泰生さん(北大農学院修士1年)が子供たちに感想をききながら、アンケートボードにシールを貼ってもらいます。*集計結果は後述
お絵かきとマトリョーシカードで復習
授業のあとは、学んだことを深めながら、マトリョーシカ型の厚紙に自由にデザインしてもらいました。色鉛筆やマジック、マスキングテープなど、好きな画材で思い思いに描いていきます。さいごに、家に帰ってからも復習できるように、授業内容を簡単にまとめた名刺サイズの「マトリョーシカード」を持ち帰ってもらいました。子供の頃って、なぜだかカードに憧れましたよね。
16:00。仲良くなった子供たちとの別れを惜しみつつ、ワークショップ終了です。照明が落とされるまで机に向かっている子もいました。
アンケート結果のまとめ
小学生以下の27人の子供たちが授業に参加してくれました。保護者アンケートと合わせて一部紹介します。理解度については、授業をうけた子供たち自身と、その様子を観察していた保護者とのあいだで、結果に多少のずれがありました。授業時の様子と合わせて考察すると、小学校中学年以上には理解できる内容だったようですが、もっと小さな子にはアンケート自体の意味がわからなかった、もしくはシールを貼る際に周りの子に影響された可能性が考えられます。満足度については、子供、保護者とも総じて高く、授業を楽しんでくれたことがわかりました。
表。授業アンケートの結果
(無回答あり。複数授業を受けた場合は複数回答あり。)
さいごに
「おしえて!マトリョーシカ」の企画を練りはじめた頃、私達は文字通り、右も左もわからない状態でした。2度目の今回は全体図が見えているぶん、心にかなり余裕ができましたが、そうなると今度は「もっとここを改善したい」という欲がでてきて、結局スケジュールにはいっさい余裕はできませんでした。ですが、それでも良かったと思っています。2回のイベントを通してかかげた目標の達成度はもちろん100%ではありませんが、メンバーは皆それぞれ、多くのことを体得しました。企画趣旨の吟味、ターゲットにうったえる内容づくり、会場選びの条件など、イベント企画に必要なスキルはもちろんのこと、何よりも、人に協力を求めること、を学んだのではないかと思います。
私達のふだんの研究活動では、自分が船長で乗組員です。独りで背負える分の荷物しか積めないし、自分の積載限度も船速も、皆だいたい見当がつくようになっているでしょう。ですが今回、イベントを協力してつくり上げる、という初体験のミッションを得て、いつもより大きな船で航海するチャンスに恵まれました。一人旅では不必要だったり不可能だった、まったく新しいアプローチが求められ、誰かの協力を得なければ立ちゆかない状況を何度も経験しました。シャイな面子が揃った私達にとっては、人に頼る、ということは時に難しいことですが、この「おしマト」シリーズを通して、ちょっとコツがつかめた気がします。
さいごに、先ほど紹介できなかった子供アンケートから。「もっと知りたくなった」:12人、「誰かに教えたくなった」:12人、「また来たい」:19人。苦心してつくりあげたワークショップが少しでも子供たちのハートに届いたようで、心から嬉しく思います。反省点は数え切れないほどありますが、なんとか納得の行く港に着いたようです。