「理系と文系をつなぐ仕事がしたい」、恩師の影響で中学生のころからそう思っていた私は、理系に進んでも「専門用語を使わずに理系の内容をわかりやすく魅力的に伝えられる」ようになれば、理系と文系をつなぐことはできると信じていました。
しかし高校では「理系の難しいことはわからないから…」と言う文系の友達が増えていき、自分が実現したいことの難しさを感じました。また私にとって何よりも衝撃的だったのは、大学合格発表直後に起こった3.11大震災です。原発事故により科学技術と市民の間にはっきりと生まれた溝を感じて、「理系と文系をつなぐとはどういうことか」「人にわかってもらうには、伝えるにはどうすればよいのか」そして「自分には何ができるのか」が私の中で疑問として膨らんでいきました。
その疑問への明確な答えもないまま就職活動を始めようとしていた大学3年の秋に、CoSTEPの存在を知り「これだ!」と感じました。自分がしたいことへの答えが見つかる、そう思いました。
そして実際に、私はCoSTEPを通して科学技術コミュニケーターの基礎や実践のノウハウを学ぶことができ、何よりも同じ志を持った仲間と出会うことができました。CoSTEPを受講して本当に良かったと思います。
それでも今になって印象深く思い出すのはCoSTEPで「学べたこと」よりも「学べなかったこと」です。
例えば、実習ではイベントづくりの基礎を学ぶのに精一杯で、コンセプト設定が疎かになりました。また毎回の講義では多くの先生方にお話を聞くことが出来ましたが、どうしても「お客さんとして聞いている自分」がおり、数々の実践をしている先生方に何を質問したらよいのかもわからないことに苛立ちました。結局私は科学技術コミュニケーターへの長い道のりの、はじめの一歩を踏み出したに過ぎなかったのでした。
しかし「自分にもっと知識や経験が増えればすべてが解決する」と考えるのは間違っているということもまた、CoSTEPで学んだのも事実です。知識のない相手に知識を与えればこちらのことが伝わると考える「欠如モデル」がコミュニケーションではないのと同じように、自分がもっともっと知識と経験を増やせばすべてが解決すると考えるのはコミュニケーションではありませんでした。
つまり「今の自分で出来ることを考えて実践していく勇気」が私には必要だとわかったこと、これがCoSTEPで得た私の一番大きな学びです。
これから受講する皆さんにとってもCoSTEPは全てを教えてくれる場ではないと思います。それでもとにかく一歩を踏み出してみてください。学べないことと同じくらい学べることがあり、さらに重要な大きなひとつの学びが、あなたを待っているはずです。
福井佑梨
北海道大学工学部環境社会工学科衛生環境工学コース4年