実践+発信

〈レポート 2 〉「生命に介入する科学III〜受精卵の選別操作、その社会的意味を考える 〜」アンケート結果の報告

2015.6.12

カフェの前半で紹介した石井哲也さんのお話は〈レポート 1 〉をご覧下さい。〈レポート 2 〉では、カフェ終了後に実施したアンケート結果や、参加されたみなさんからお寄せいただいたメッセージを紹介します。

(グループディスカッションを可視化するための円卓ボード)

〈アンケート:質問 1 〉ヒト受精卵の選別や操作は、誰に最も大きな影響を与える問題だと思いますか。メリットとデメリットの面でそれぞれもっとも当てはまる選択肢をひとつ選んでください。

受精卵の選別や操作によってもっともメリットを享受するのは主に親や社会であり、デメリットを被るのは子(受精卵)や社会であると答えた方が約7割を占めました。親という当事者としてのメリットが中心に捉えられていますが、デメリットに関しては視点が親ではなく、子(受精卵)、社会、障がい者に広がって向けられていることがわかりました。また、どちらの問いにも「わからない」と答えた方が一定程度います。このテーマに慎重な態度を示そうとする表れかもしれません。すぐに結論づけようとしない姿勢にも意味があるのではないかと考えます。

親がメリットを受けると答えた理由

  • 選択ができるのは先に存在している側だから。
  • 心の準備が出来る。
  • 障害のある子を育てるリスクを減らせる。
  • 選択肢が増えるし、障がいのない子どもが産まれれば子育ての苦労が増えないと思う。
  • 子育てしやすいし、親の負担が少なくなる。

社会がメリットを受けると答えた理由

  • 親はもちろんメリットをうけるが「選べること」「事前に子の状態を知ること」がはたして本当に幸せなのかわからない。
  • 社会は医療産業を発展させ、新たなお金もうけの方法を考えて、人の切実な願いにつけこみそうです。
  • 少数派を無くすことで、彼らに対する差別、偏見、迫害がなくなる。
  • 社会保障費/医療費減につながる。

子(受精卵)がデメリットを受けると答えた理由

  • 生まれる前に自分の価値を評価され、場合によっては殺されてしまうのはかわいそう。
  • 障がいがあっても幸福に生きることはできる。その権利をうばわれている。
  • 自然にまかせて生まれることができなくなる。「障がい者」については障がいを持つことがそもそも良い・悪いの議論が先に必要だと思う。

障がい者がデメリットを受けると答えた理由

  • 選別によって障がい者を減らすというのは、現に今いる障がい者の存在を認めないということにつながると考える。
  • 障がい者とは何なのか(発達障がいの子どもの判断が難しいのと同じように)わからないので、障がいをもつ可能性で切りすてるのはどうか。マジョリティー化もすすむ。

社会がデメリットを受けると答えた理由

  • 成熟していない社会で研究だけ進んでいくのは悲劇だと思う。
  • 人類全体の継承のための遺伝子の多様性、資源の幅が減ってしまう。
  • 遺伝的多様性がへる。殺伐とした社会になりそう。
  • 少数派を消滅させようとする気運が、人間の精神を不安定にし、希望のもてないギスギスした人生を送ることになる。
  • 障がい者が生まれることに何か意味あると考える。

〈アンケート:質問 2 〉あなたは体外受精で得られたヒト受精卵を、遺伝学的に選別すること(着床前スクリーニング(PGS))を受け入れますか。また、体外受精で得られたヒト受精卵を、遺伝学的に操作すること(ゲノム編集)を受け入れますか。

受精卵の選別と改変(ゲノム編集)に対する考え方にはばらつきがあるものの、前回の第77回(2014年10月19日)に行った同様のアンケート調査とほぼ同じ結果が得られました。ヒト受精卵のゲノム編集に関しては半数以上の方が「受け入れられない/どちらかといえば受け入れられない」を選択しています。

今回は胚の検査と選別に関してフォーカスを「着床前検査(PGS)」に絞ったにもかかわらず、前回と同様の結果が得られました。また受精卵の操作・改変に関しても高精度・高効率な遺伝工学的「ゲノム編集」というキーワードを使用しましたが、市民の「受け入れる/受け入れられない」といった意見の傾向は前回と変わらないといえます。

また、多くの参加者は「受精卵の選別と改変」という医療技術が親へのメリットに繋がっていると判断していながら、実際に受け入れるかという質問には慎重な態度を示しました。「わからない・無回答」を選んだ方も25%以上いたことにも意味があると考えております。

参加者の感想(メッセージカードに記入していただきました)

  • まだまだ未知の影響がありそうなので、研究としては受け入れられるが臨床としては受け入れられない。
  • 受精卵の選別は受け入れられると思うけど、親になる立場になってみないとわからない。
  • 基礎研究を行なうことについては反対しないが、実際臨床として受け入れることは心理的障壁がある。
  • 自然の流れに逆らわずその後のフォローに力を入れるべき。
  • 体外であろうと受精した時点でそのまま生まれて欲しい。育てられない可能性があるなら体外受精もダメ。
  • リスクが高い。ゲノムを編集するということは望みどおりの子孫を産むということ。それは果たして本当に幸せなことなのか?
  • あまりに自然からかけ離れている。それをする前にやるべきことがあるのでは…?(早くに結婚する。多様性を認め合える社会をつくる。子どもを育てやすい社会をつくる)
  • 人間の開発した技術である以上100%確実とういことはありえない。予想外・想定外の結果となったときの「責任」の所在がまだ確定できてないと考える。
  • 人間が手を入れてはいけない科学もあるはず 障害者は生まれては生きていてはいけないのでしょうか。
  • 貧困→結婚できない→出産できない(高齢出産)リスク大選別ができない→障がいのある子を授かる可能性→ますます経済的負担大→貧困(悪循環になりそう)
  • 「生の形」を親や医者が決めていいのでしょうか。
  • そろそろ生まれてくる子どものことを考える時期が来ているのではないでしょうか。
  • そして移植したけれど着床しなかった、着床したけど流産してしまった…というときのダメージははかり知れないのではないか。
  • 遺伝的に正常なる子供しか生んではいけませんよ…というプレッシャーにつながると思います。
  • 夫婦のあり方と、どのような質の子どもを欲しいのか混同している。
  • 逆に着床前診断が受け入れられない事で当事者が受ける不利益の方が大きい(その他の救済措置があまりない)→以上により禁止にすべきではなかっただろう。

(参加者の意見を紹介するグループファシリテーターの平田さん)

(参加者の意見を紹介するグループファシリテーターの小倉さん)


(CoSTEPスタッフとファシリテーターをつとめた受講生/修了生)