実践+発信

「主体的な学びのためのラーニングポートフォリオ」9/5土持ゲーリー法一先生の講義レポート

2015.9.25

レポート:尾形 和哉(2015年度 選科A/旭川市役所 職員)

「自分の学びを振り返り、自分がどのような学修者なのかを知ってもらいたい」

近年、大学教育の現場では、学生による「主体的学び」の重要性が注目されています。今回の講義では、「主体的学び」を促すための手法である「ラーニング・ポートフォリオ」について、帝京大学高等教育開発センターのセンター長を務められている土持ゲーリー法一先生より解説していただきました。

学習から学修へ

大学の授業を考えるとき、私たちは一つの単位に対し、合計で15回の「講義」を受講することになります。しかし、本来の単位制では「講義」の他に、1週の間で行われる「予習」及び「復習」の時間も含めて授業とみなされています。つまり、「予習+講義+復習」を15週繰り返してはじめて1単位と認められるのです。これこそが、大学が実践するべき本来の「学修」です。講義を受講するだけでは、実は1/3の単位しか得られていないのです。

文部科学省は大学に対し「生涯学び続け、主体的に考える力を育成する」ことを推奨しています。残りの2/3単位はまさに「主体的学び」であり、これを促進させることのできる「アクティブラーニング」という手法が、今日の大学教育の場で熱く議論されています。

アクティブラーニングという考え方

帝京大学高等教育開発センターの客員教授であるディー・フィンク博士が土持先生と行った対談では、アクティブラーニングを3つの要素で説明しています。能動性が発揮される「経験」、学生が得る「情報とアイディア」、そして学習プロセスを振り返る「省察」です。

勿論、グループワークやディスカッションといった手法もアクティブラーニングには違いありませんが、ここでは内面的な振り返りである「省察」こそが、アクティブラーニングであるという発想なのです。

しかし、大学でのアクティブラーニングの導入は決して容易なものであありません。その理由として、評価することの難しさが挙げられます。「予習」や「復習」の成果には「技能」や「態度」といった側面があり、従来の「知識」のみを評価する方法では測ることができないのです。

学びのプロセスを学ぶ

大学での学びにおける評価の問題について、土持先生がとある大学の講義でのエピソードを交えて説明してくださいました。

鐘が鳴ったため講義を終えようとした土持先生ですが、なぜか学生たちは一向に動こうとはしません。一人の学生にそのことを尋ねると「今日の授業の結論をまだ聞いていません。先生は結論のない授業をするのですか」といったのです。そこで、土持先生は次のように答えました。「私の結論を聞いても役には立ちません。大学の授業というものは結論の手前で止まっているのです。あなたたちは自分の結論を導いて、そのプロセスを学びなさい」

従来の学びでは、結論のみが試験で問われてきました。しかし、私たちが大学で学ぶ上で重要な事は、結論を得ることではなく、そこへ至るプロセスを学ぶというところにあるようです。

プロセスを学ぶ手法として確立されており、アクティブラーニングとしての「省察」を促し、さらに「技能」や「態度」を評価することにも有効な方法が存在しています。それが「ラーニング・ポートフォリオ」です。

ラーニング・ポートフォリオとは

ポートフォリオと呼ばれるものにはその対象によって3種類のポートフォリオがあります。まず、先生のための「ティーチング・ポートフォリオ」、次に先生の業績を対象とした「アカデミック・ポートフォリオ」、そして今回の講義の主題でもある、学生のための「ラーニング・ポートフォリオ」です。

ラーニング・ポートフォリオとは、私達がどのようにしてその考え方に至ったのかという学習のプロセスを振り返り、客観的な証拠資料によって裏付けされた、自らの主観に基づくドキュメントのことを指します。学習過程を知ることができる3つの要素としては、「リフレクション(省察)」「ドキュメンテーション(証拠資料)」「コラーボレーション/メンターリング(協力)」が挙げられており、特にリフレクションの重要性が注目されています。

では、この省察を取り入れた授業としては、どのような形態が考えられるでしょうか。

反転授業

実践例として、土持先生が行った反転授業について解説をしていただきました。その中で、MIT方式と呼ばれる、学生自身が問題を作成する方法を通して、学生が取り上げてきたテーマの偏りから、学生の理解度を測ることもできるという授業の事例が挙げられていました。

また、ポートフォリオを作成するにあたり、各授業のコンセプトを図やダイヤグラムでつなげた「コンセプトマップ」を作成することで省察が促され、ポートフォリオの作成がより容易になるような工夫もされています。

ラーニング・ポートフォリオの未来

アメリカでは卒業論文に加え、卒業ポートフォリオが注目されています。一つの単元に限らず、4年間を通じて学んだことをポートフォリオにまとめることで、「主体的学び」の成果を測ることができるためです。

ラーニング・ポートフォリオの評価は「改善を促す評価」、すなわち「アセスメント」でなければなりません。この評価を受けることで、論文の内容だけでなく、学生がどのように考え、振り返りを行ったかを知ることができ、より深い学びへとつながるのです。

自分がどのような学修者なのか、何をどのように学んだのか。それらを整理し関連付け、自分の言葉で表現することは決して簡単なことではありませんが、まずはこの講義レポートを第一歩として、CoSTEPでの学びを振り返ってみたいと思いました。土持先生、ありがとうございました。