実践+発信

「独立系研究者の立場から 見た科学技術コミュニケー ション」11/7小松正先生の講義レポート

2015.12.1

レポート:松岡郁子(2015年度 本科 映像メディア実習/農学院修士2年)

研究者と聞いてイメージするのは、特定の研究機関に所属する人であることが多いでしょう。しかし、個人事業で研究を行っている人もいます。さまざまな研究者の立場や、科学技術コミュニケーションの多様な可能性について、「独立系研究者」である小松正先生がお話しくださいました。

独立系研究者となるきっかけ

大学や企業の研究プロジェクトに個人契約で参加し、報酬を得ているのが独立系研究者である小松先生のワークスタイルです。独立前までは、民間の研究機関に勤めるかたわら、副業として経営者や事業主から受ける研究の相談に応じていらっしゃいました。研究のノウハウや専門知識を持つ人材を求める声が多く、オープンサイエンスの推進や研究資金獲得方法の多様化など研究者を取り巻く環境の変化が後押しとなって、2004年に個人事業主として小松研究事務所を開設されました。

自分の研究スキルを売り込む

学生時代の専門は進化生物学や生態学で、その後、実験計画やデータマイニングの仕事もいくつか行ったといいます。また、独立後には行動判別機能を持つ介護福祉製品、深海に適応可能なバイオロギングデバイスやテキストマイニングによる会議評価手法の開発など幅広い分野に関わっていらっしゃいます。これらの開発事業は、一見するとそれまでの専門と関係のないようなジャンルに思えますが、どの研究プロジェクトも自身がもともと持っている知識や研究スキルの応用で進んでいったそうです。無関係に思える相手方のニーズでも、自分の専門知識や技能とのコネクションをうまく提示していくことで、限られた分野にとどまらず多様な研究事業に参加していらっしゃいます。

独立系研究者にとっての科学技術コミュニケーション

独立系研究者は、自ら科学技術コミュニケーションを行う機会が多くあります。自己紹介やクライアントとの交渉、そして研究費の獲得など、研究につなげるための活動自体が科学技術コミュニケーションになっているからだと言います。相手が自分のスキルや業績に興味を持ってもらえないと成立しないのが、個人事業主の仕事です。

まず、相手の職業や興味関心と関連付けるように説明することが必要で、過去の研究をただ並べて紹介するだけではなく、相手方が日頃身近に感じている話題から自身の研究分野に広げていくだけでも相手の持つ印象は大きく変わってくると言います。他にも質問には即座に答えていき、分からないなら分かっていない理由を説明した上で、それでも興味を示さない人には無理に説明しないといった心がけが大事だそうです。

 学術系同人イベントの展示物が商品化につながった例。ウニの発生プロセスをモチーフにしたネイルアート。 

雇用形態の多様化や研究機関の改革など研究者を取り巻く環境は大きく変化し、研究者自身で新しいスタイルを模索していくことが必要な時代になってきました。従来の研究者イメージにとらわれることなく、社会需要の高まりへうまく科学技術を提供できる職種のひとつが今回ご紹介いただいた「独立系研究者」であると感じました。また、科学を知ってもらう力強いツールがアートや映像などを使った科学技術コミュニケーションであり、研究者の広い活躍の場を作っていける人材こそ科学技術コミュニケーターであるとアドバイスもいただきました。社会から求められるサイエンスにまつわる人材の幅広さにあらためて気づかされました。

最後に、小松先生の学問的な引き出しの多さはどこから来るのかとの質問に対して、意識して広く情報収集しているわけではなく、自分が強く興味関心のある生物の本質を学んでいくうちに知識が広がっていき、結果的に現在の様な仕事につながっているとおっしゃっていました。どの分野でも細分化された科学だけを見続けるのはなく、より本質的な部分から考えていくと知識や技術の繋がりを見つけ出すヒントが生まれるのだと感じました。

小松正先生、ありがとうございました。