実践+発信

「地域のイベント自治体の役割」 1/9 長谷山裕一先生の講義レポート

2016.1.19

サイエンスイベントであれ、仕事のプロジェクトであれ、多くの人と一緒に何かをしようとするにはネットワーク作りが重要になります。規模が多くなればなるほど、関わるステークホルダーは多くなり、「旗振り役」の仕事は難しくなります。今回、講義をしていただいた長谷山裕一先生(函館市役所 都市建設部参事)は、科学と文化をテーマに2009年から開催され、大きな成功を収めている「はこだて国際科学祭」に立ち上げから中心メンバーとなって携わってこられました。多様な人や組織と一緒に、地域全体で行うイベントを成功に導くまでをお話しいただきました。

工藤康人(2015年度CoSTEP選科B)

自治体職員のイメージ

冒頭、長谷山先生は「皆さんは、自治体職員に対してどのような印象を持っているでしょうか?」と問いかけられました。世間から、特に民間の人たちからは「杓子定規」といった悪いイメージを持って語られることも多いのが自治体職員です。「今日は、こんな自治体職員もいることをお話しします」と、長谷山先生は函館市の現状や、その中でのご自身のキャリアからお話を始められました。

市民と連携しての街づくり

函館市といえば、函館山の夜景で有名な観光都市のイメージをお持ちの方が多いと思います。しかし、市の人口は昭和55(1980)年をピークに減少しており、現在は国から過疎地域に指定されている一面も持っています。もちろん、地域の人口が大きく減っていく深刻な事態に、自治体もさまざまな施策を打っています。このような環境の中で、長谷山先生も都市再生に携わる仕事に携わりました。長谷山先生は、建設会社を経て函館市に入庁。都市開発の部署で再開発や、中心市街地活性化などに携わりました。2001年には、年齢や職業が全く違う市民同士でチームを組み、地域の特色ある街づくりを推進するために何をするべきか議論して発表する「ハコダテ・スミカプロジェクト」や、大学関係者などを招いて街の魅力について考え議論する「ハコダテまちなかオープンスクール」などのイベントを担当してきました。また、プライベートでは実家の機械工場の建物を映画の撮影用に提供するなど公私ともに地域振興に情熱を注いでおられます。行政の中というよりは庁舎の外に飛び出し、市民と連携して都市再生を進める方向性のキャリアを歩んできた長谷山先生は2005年に企画部に異動し、より広い視野から街づくりを考える仕事をしていくことになります。市内のNPOが一堂に会するイベントや、市内の高等教育機関の連携推進、公共交通網の整備、路地裏に隠れた街の魅力を探す「路地裏探偵団」の運営に次々と携わりました。こうした事業の一つとして、科学技術振興機構の地域ネットワーク支援の採択を受けて2008年から活動を開始したのが「はこだて国際科学祭」です。

自己紹介

多彩なイベント、多様な参加者

科学祭は、市や教育委員会、大学関係者らが、組織「サイエンス・サポート函館」を作って運営しています。市内の複数の場所で開催されるさまざまなイベントは、子ども向けのものから大人向けまで、少人数が対象のものから大勢の人が参加するものまで、楽しいものから社会的なテーマを扱う「重い」ものまで、祝祭的な雰囲気の中で多様な形式・テーマを網羅していて、ありとあらゆる市民が参加できることが特徴です。たとえば、メインプログラムとして開催している展覧会のほか、お酒を飲みながら音楽と一緒に科学の話題を楽しむサイエンスライブ、高校生による研究発表、市内でのサイエンスクイズラリー、大ホールで子ども向けに行うイベントなどです。サイエンスカフェも、気軽な雰囲気で参加できるテーマから、原発事故など社会の関心の高いテーマで開催され、市民それぞれが自分の属性や関心に応じてイベントに参加し、科学に触れることが可能です。科学祭は地元メディアにも取り上げられて年々盛り上がりつつあり、出展者やパートナー数が伸びてきています。2014年にはこうした取り組みが評価され、文部科学大臣表彰を受けています。

はこだて国際科学祭について

全体を良くするために何ができるかを考える

大きな成功を収めている科学祭について、長谷山先生は自治体職員として携わる自分のあり方を「自治体職員は全体の奉仕者です。主役はあくまでも市民ですから」と強調されました。また「イベント運営の中心になるのではなく、イベントと市民や企業をつなげるアダプタのような役割を目指していた」とおっしゃいました。こうした考えは自治体職員だけでなく、科学者と市民の間で活動する私たち科学技術コミュニケーターにも当てはまるものだと思います。我々科学技術コミュニケーターが地域ぐるみの活動を行う上で、自治体と一緒に事業を行うこともでてくるでしょう。長谷山先生は自治体に協力を促す際のヒントとして「自分たちの活動が立派で重要なことだと過度に強調することは避けた方が良いです。また、仲間内の趣味のような活動でも、自治体は動きません。地域が何に困っていて、何を望み、どうしたら良くなるかをリサーチして、自分たちの活動と合わせて説明をしてほしい。自治体職員は、みんな自分の街が大好きで、その街をよくするためになんとかしたいと考えています」と話してくださいました。

講義後の熱心な質疑応答

科学技術コミュニケーターは多くのステークホルダーと関わりながら活動していかなくてはなりません。関わる人が多くなればなるほど、多様になればなるほど、意見や利害が対立することも多くなると思います。ともすると独りよがりになってしまい、周囲の理解を得られないことがあるかもしれません。そうした時にこそ「全体を良くするために自分は何ができるか」を振り返ることが大切だと気づきました。

長谷山先生、貴重なお話をありがとうございました。


函館Loveで集合写真