実践+発信

「エスノグラフィー基本的な考え方」10/1 小田博志先生の講義レポート

2016.10.4

口町和香(2016年度本科/学生)

10月1日はさわやかな秋晴れでした。

わたしたちの学ぶ科学技術コミュニケーションの活動にはさまざまなバックグラウンドを持った他者をつなぐことが含まれています。その前提として他者を理解することが必要です。他者を理解する際に力を発揮するエスノグラフィーという研究手法について、この日、小田博志先生(北海道大学大学院文学研究科)にお話しいただきました。

言葉でとらえる、現場の知

エスノグラフィーは他者理解の方法論の一つです。時々刻々と変化し、外から見ただけではわからない他者集団を数値ではなく言葉によって記述します。特徴は、インタビューなどのフィールドワークを行い、他者集団を理解していくこと。対象を既存の考え方にとらわれず、その内側から明らかにしていく手法です。

エスノグラフィーの実践例

小田先生は、ひらめきがどのように大きな成果を生み出したのかを徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」を基に、エスノグラフィーの手法を使って研究をしました。上勝町はかつては過疎と住民の高齢化で知られた地域でしたが、1986年から高級料亭で使われる「つまもの」になる葉っぱを地域のおばあちゃんたちの力を借りて出荷するビジネスを始めたところ、今では地域再生の成功例としてメディアで取り上げられるほどになっています。もちろん、ここにいたるまでには関係者のたいへんな苦労があったことは容易に想像できます。小田先生は研究を進める中で、「葉っぱビジネス」をひらめき、起業し、地域を活気づけた立役者、横石知二さんにインタビューを行ったり、上勝町のおばあちゃんとともに葉っぱ梱包の作業をしたりしながら、現場でいったいなにが起こっているのかを明らかにしようとしました。

こういった現地での取り組みを通して、横石さんのひらめきと実践の関係が見えてきました。横石さんは地域という他者集団に入って観察し、そこでの課題を見つけ、どうやったら課題を解決できるのかと考え続けました。やがてある瞬間に頭の中の要素がつながり、「葉っぱを売る」ことをひらめきました。そして消費者や高齢者にあわせながら、情報機材を用い、人を主役にする仕組みを整えていきました。エスノグラフィーにおける問いの解決でも同じことをしていると小田先生はいいます。横石さんはまさにエスノグラファーであったわけです。

答えは向こうからやってくる

エスノグラフィーは、他者集団を理解しようとする研究手法です。他者集団の「いま」を知るために集団に自ら入り、他者の声を聴く。現状を知る。問いをもつ。物事のつながりが見えるまで、行動し続ける。そうして問いの答えが、向こうからやってくる。これが、今回小田先生の講義で教わったエスノグラフィーの姿でした。

これは、他者の世界との対話といえると思います。理解するために、つなぐために、じっと待つ。今後の科学コミュニケーションの取り組みに向けて、手法だけでなく姿勢も学んだ講義でした。

小田先生、ありがとうございました。